歪んだ月が愛しくて2
「最近の東都襲撃事件もテメー等の仕業だな?」
自らを“鬼”と名乗る男達は頼稀の言葉に薄っすらと口元に笑みを浮かべた。
「ああ、やったのは俺達だ。あの人の指示でな」
あの人?
「バカ!余計なこと言ってんじゃねぇ!」
「あの人にバレたら殺されっぞ!」
「わ、悪ぃ…」
その態度で確信した。
男達の背後には誰かがいる。
つまりその人物がここにいない俺の知っているアイツ。
『シーロちゃん♡』
―――キョウ。
「何故白夜叉のふりをして騒ぎを起こした?」
「バカかお前?白夜叉を誘き出すために決まってんだろうが」
「そのために雑魚ばっか狙って態々白夜叉が復活したって噂まで流してやったんだよ」
「案の定噂は忽ち広まったってのに腰の重い白夜叉サマは一向に姿を見せねぇけどな」
「とんだ腑抜けだな」
「まあ、どこに隠れてようとも何れ炙り出してやっけどな」
いや、ここにいるんだけど。
逃げも隠れもしてないんだけど。
「白夜叉に何の用だ?会って何がしたい?」
「さあな。俺達は知らねぇよ」
「多分復讐じゃねぇの?」
大そうなこと言うくせにまるでその気のない声色に違和感を覚えた。
「あんな事件があったってのにまだ懲りてねぇのか?」
「は?懲りる?何で?」
「………」
男達のニタニタした顔に頼稀が眉を顰めたのが分かった。
同様に俺の心が波を立てる。
ああ、心がざわつく。
その感覚が気持ち悪い。
「まあ、確かにあの事件では大分世話になったみてぇだけどな」
「みたい?」
「あの事件に関わった仲間の殆どがこの世界から足を洗ったからな。今いるメンバーは“あの事件”って言われてもイマイチピンと来ねぇんだわ」
「噂程度には知ってるけど上の方々もこの話には一切触れねぇし」
「あー…何だっけか?確か白夜叉に懐柔された裏切り者を処刑してる時に本人が乱入して来たんだっけ?」
「それで白夜叉が逆ギレしたってだけの話だろう」
逆ギレ?
「しょーもねぇ話だよな。こっちはただ裏切り者を処分してただけだってのに」
裏切り者?
処分?
「しかも東都の連中は“あの事件”なんて言葉を濁すけどよ、あれって話盛り過ぎじゃね?」
「あんなの周りがビビって大袈裟に言ってるだけだろう。“生きる伝説”とか“最強の族潰し”とか有り得ねぇだろうマジで」
「だよな。実際存在すんのかも眉唾もんだし」
「てかもうその辺でくたばってるんじゃねぇ?白夜叉のせいでうちの半数が出張ってんだからな」
「バーカ。あの人に殺すなって言われてるからそれはねぇだろう」
「ああ、早く白夜叉見つかんねぇかな。これじゃいつまで経っても鬼ごっこが終わんねぇじゃん」
「あの人相当ねちっこいからな」
「まあ、お陰でこっちは退屈しねぇけど」
「ボコれるし、ストレス発散にはなるし、金も手に入るし」
「白夜叉万々歳だな」
ざわ、ざわ。
「立夏…?」
ざわ、ざわ。
……ああ、煩い。
俺の中で何かが蠢く。
身体中の血が沸き上がる感覚に目を瞑る。
「……おい」
……煩い。
「―――…か」
煩い。
うるさい。
「り、」
カッと、頭の芯が熱くなる。
あの声が、奴の息遣いが、すぐ近くで聞こえるようだ。
俺の中に住まう獰猛な獣が枷を食い千切って今にも暴れ出そうとしている。
「立夏っ!?」
頼稀が何度も俺の名前を呼んでいる。
でも俺は下を向いたまま動かない。何も答えない。
頼稀の声はちゃんと聞こえている。
それなのに聞こえてるのに何の反応も出来なかった。
唯一感じるのは俺の中に巣食う“奴”の存在だけ。