歪んだ月が愛しくて2
頼稀の単車は大通りから迷わず裏路地に入って行く。
既に深夜と言うこともあり、人通りはほぼないから多少運転が荒くても通行人とぶつかる心配はなかった。
「オラオラ!止まれやー!」
「すぐにボコッてやっかんな!」
とうとう道は行き止まり。
目の前には大きな壁が立ちはだかり逃げ場はどこにもなかった。
「もう逃げらんねぇぞ!」
逃げるつもりはない。
逃すつもりもないが。
「ここでいいか」
「ああ」
キィッとブレーキ音を響かせ、俺は頼稀よりも先にリアシートから飛び降りた。
追手も次々と単車から降り、俺達を壁側に追いやるようにして取り囲む。
「やっと捕まえたぜ!」
「もう逃さねぇぞ!」
追手の数は約15人。
殆どの連中は金属バッドやらメリケンサックなどの武器を持ち、ニヤニヤと気持ち悪い顔で俺達を見定めていた。
でも、その中に俺の知ってる顔はない。
「チッ」
無意識に舌打ちが漏れる。
そんな俺の心情も知らずに、追手の1人がお門違いなことを口にする。
「テメー等“B2”だな!」
……………は?
テメー等?
「緑のケッチに乗ってる“B2”と言ったらPCオタクの隊長サマだろう」
「隣にいるひょろっこい黒いのも仲間か?」
「“流眼の蝶”が連れてる奴だから諜報の誰かだろうぜ」
「じゃあ雑魚で決まりだな」
「俺達だけでも楽勝じゃん」
俺と頼稀は互いに顔を見合わせる。
連中の話し振りからして、どうやら俺の正体には気付いていないらしい。
つまり俺を白夜叉だと思って襲撃したのではなく、“B2”の幹部である頼稀と一緒にいたから喧嘩売って来たってわけか。
うっそーん。そんなことってある?
え、さっきまでの俺の意気込みは?
どうしてくれんだよ。こっちはさっきまでやる気満々だったんだぞ。肩透かしもいいところじゃん。
「テメー等どこのもんだ?ここがうちのシマだと分かって喧嘩売ってんのか?」
頼稀の低い声に、敵は怯むことなく卑下した声で笑う。
バカだな。そんな頭の悪そうな下品な声で笑って、自分から低脳ですって言ってるようなものだ。
相手の力量も測れず、群れるだけ群れて吠えるだけしか能がない。
(まるで野犬だな…)
「俺達は“鬼”だ!」
ああ、やっぱりバカだ。
「当然、ここが“B2”のシマだってことは分かってるぜ」
「でも時期にここも俺達のもんになるけどな」
「何だと?」
途端、頼稀は険しい表情を見せる。
「所詮“B2”はNo.3。俺達東日本最強にはどう足掻いても勝てねぇんだよ!」
「残念だったな」
「“蝶”は“鬼”に食い殺される運命ってか?」
「この世は弱肉強食だろう」
「くくっ、違いねぇ!」
裏路地に下品な笑い声が充満する。
どうやらここにはバカしかいないらしい。
「なあ、今の何が面白かったの?」
「知るか」
そんな奴等を見て頼稀は「勝手に笑わせとけ」と呆れていた。
……うん、その気持ちがよく分かる。