歪んだ月が愛しくて2
「何だぁ?お仲間黙っちゃったぜ?」
「ビビッてんじゃねぇの?」
「ダッセーな」
「こんなのが東日本のNo.3かよ、情けねぇ」
……堪えろ。堪えろ。
まだ、ダメだ。
「……御託はいい」
頼稀は俺の身体を隠すようにそっと前に立つ。
「来いよ。まとめて片付けてやる」
右手を前に出して相手を挑発する。
そうやって動かない俺の代わりに自分が標的になるように仕向ける。
「ハッ、まとめて片付けるだぁ?たった2人でかよ?」
「バッカじゃねぇの!自分達の状況見てから喋れや!」
「ギャハハハ!マジでコイツ等バカじゃん!温室育ちの“B2”が俺達に勝てるわけねぇだろうが!」
「……弱い奴ほどよく吠えるって、あれマジだな」
「んだと!?」
「雑魚はどっちだ!」
「粋がってんじゃねぇぞ!」
「たった2人で何が出来る?こっちの数見えてねぇのか?」
「数は問題じゃ…「足りねぇ」
直後、俺は頼稀の言葉を遮って走り出す。
誰でも良かった。だから一番手前にいた男の胸倉を掴んでその顔面に一発入れた。
だらんと、たった一発で気を失った男の胸倉を掴んだまま首だけを動かして目の前の獲物を見据えた。
突然の先制攻撃に“鬼”もあの頼稀でさえも驚いた様子で俺を見つめていた。
「足りねぇんだよ。テメー等如きじゃ腹の足しにもなりゃしねぇ」
手を離せば、ドサッと人間が地面に沈む。
そいつを足蹴りして、低く冷たい声で言い放つ。
「もっと寄越せよ」
「ヒィッ、」
途端、敵の肩がビクッと跳ねる。
あまりの声の低さに誰かが悲鳴を上げた。
その瞳から読み取れた感情は、動揺、緊張、そして―――恐怖だった。
地面に沈む男はピクピクと痙攣し続けている。
それを間近で見ていた味方は、先程までの威勢はどこへ行ったのか一歩一歩と俺から距離を取ろうとした。
……まだだ。
まだ、これを表に出してはいけない。
一歩、一歩と足を動かせば「う、うう動くなっ!!」と銅鑼声が響く。
(煩ぇな…)
どうやら、奴等はまだ分かってないらしい。
「お仲間呼ばなくいいのー?」
誰に喧嘩を売ったのか。
目の前の俺が、誰なのか。
ゆるりと、無意識に口角が上がる。
俺の挑発に敵はハッと我に返り、焦った様子でスマートフォンを取り出して耳に当てる。
「お、おい!もっと仲間集めろっ!」
「煩ぇ!今掛けてんだよ!」
いくら仲間を呼んでも構わない。
誰であろうと、何人束になって掛かって来ようと現状は変わらない。
「ハッ、相手はたった2人じゃねぇか!ビビることねぇ!行くぜ!」
「お、おうっ!」
“鬼”の1人が先陣を切って突っ込んで来たと同時に俺も群の中へと走り出す。
それが開戦の合図となり、裏路地では乱闘騒ぎが始まった。