歪んだ月が愛しくて2
ガチャと、暫くして文月さんは部屋に戻って来た。
その手には見覚えのあるマグカップと白地に水色の柄が入った小さめのカップを持っていた。
「……それ」
「あ?」
「いや、まだ持ってたんだなって思って…」
「ああ、どっかの誰かさんから誕生日プレゼントだからな。ほらよ」
「何、これ?」
「見りゃ分かんだろう。いいから飲め」
「……ありがと」
手渡された小さめのカップには温かいコーヒーが入っていた。
「自分で淹れたの?」
「他に誰がいんだよ」
「哀さんとか…」
「アイツは会社だ」
「………」
「何だ?また哀に迷惑掛けるなとか言いたいのか?」
「……俺の、せい?」
「あ?」
「また…、俺のせいで哀さんに迷惑掛けちゃった…」
俺の言葉に文月さんは驚いたように目を丸くさせた。
何で文月さんがそんな顔するのか分からないが、文月さんがここにいるってことは誰かが文月さんの代わりをしなきゃいけないってことだ。
それを哀さんが肩代わりしてくれてると思うと申し訳なくて、情けなくて、無性に自分と言う存在が嫌になる瞬間だった。
「お前のせいじゃねぇよ」
そんな俺を見て文月さんは怖いくらい真剣な表情を見せた。
「お前が何を思ってそんなこと言ってんのか知らねぇが、俺様がここにいるのは俺様の勝手だ。お前のせいじゃない」
文月さんはギシッと音を立ててベッドの端に座る。
「哀も、それは分かってる。寧ろお前がそんなこと気にしてたら逆にアイツが気に病むぞ」
「そんなこと、ない」
あるはずがない。
「あるんだよ、この分からず屋」
はぁ…と、深い溜息が聞こえる。
「それにアイツもお前が可愛くて仕方ねぇんだ。お前のために何かしてやりたくてウズウズしてんだよ。だからお前もアイツの好きなようにさせてやれ。それが哀のためだ」
何が哀さんのためだ。
哀さんが俺に気を遣ってくれるのは、結局は俺が弱いせいじゃないか。
俺がいつまで経っても子供だから、あの頃のまま臆病で弱虫だから。
『―――助けてよっ!』
きっと、あの言葉が哀さんを縛り付けている。
そんなこと俺はちっとも望んでないのに、結果的にあの時の俺の言葉がまるで呪いのように哀さんの心を蝕んでいた。そして文月さんも。
だから俺は証明しなくちゃいけない。強くならなきゃいけない。
もうあの頃みたいに甘えてばかりじゃいけないんだ。