歪んだ月が愛しくて2



早朝の仄暗い中、文月さんは俺の帰りを待っていてくれた。
待っててくれなんて頼んだ覚えはないが、あの太陽に似た光を目の当たりにして動揺していた俺に何も聞かないで受け入れてくれた文月さんには少しだけ感謝している。





『絶対に無茶なことはしないで下さい』





約束は守れなかったが。



「そうか…」



文月さんは俺から身体を離してベッドから起き上がると、ソファーに掛かっていたワイシャツに手を通した。



「……さっきから気になってたんだけど、ここってどこ?」

「聖楓」

「聖楓?でも…」

「見覚えがないのは当然だ。ここは俺様専用の仮眠室だからな」



この仮眠室は文月さん専用で、どうやら理事長室の隣にあるらしい。
既に学園の中なら部屋まで連れてってくれればいいのに…、なんて思ったがきっと文月さんなりに気を遣ってくれたんだろう。



(俺があんな状態だったから…)



また、面倒を掛けてしまった。

こんなはずじゃなかったのに…。



「ちょっと待ってろ」



そう言って文月さんは仮眠室を出て行った。
ぽつんと取り残された部屋で、俺は昨日のことを振り返る。



……見られた。

きっと、知られてしまった。

俺の過去も、俺の正体も。



誰にも知られたくなかった。

会長にだけは知られたくなかったのに。





『立夏…』





会長は、確かにそう言った。
声は聞こえなかったが間違いない。
心の中では「違う違う」と否定しながらも、考えれば考えるほどあれを見間違うとは思えない。



でも、何で?



頭はフードを被って隠してたし、目が合ったのだってほんの一瞬だけ。
はっきりと顔を見られたわけじゃない。
それにあの時の俺の目はこの色じゃなかった。
あの忌々しい血の色だったはずなのに、それなのにどうして会長は俺の名前を呼んだのだろうか。



「会長…」



頼稀には会長に見られたことを話していない。いや、話せなかった。
頼稀に話してまた余計な心配も迷惑も掛けたくなかったし、頼稀のことだから会長に直接会って確かめるって言い兼ねない。
文月さんにも昨日のことを追及されるのは時間の問題だから何れは話さなきゃいけないことなんだろうけど、そもそも頼稀も文月さんも会長とあんまり仲良くないから無闇に接触させたくないって言うのが本音だった。


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