歪んだ月が愛しくて2



立夏Side





今日、聖学に入学して初めての体育祭が開催される。
生憎の曇り空だが、体育祭をやるには丁度いい気候だ。
炎天下の中を走り回る羽目になったらバックレていたかもしれない。



俺達は規定の体操服の上からジャージを羽織って、いつものように学生棟の食堂で未空達と朝食を済ませてから1年C組に向かった。



ガラッと、ドアを開ける。



そこにいたのは…、



「Good morning everyone!」



パチッと、瞬きを一つ。
そんな俺とは裏腹に唖然として開いた口が塞がらない、葵とみっちゃん。
コイツまたやってるよ的な顔で苦笑する、未空と頼稀と希。
何故ならドアを開けて真っ先に目に飛び込んで来たのは、人工的なライトの光ではなく、柔らかい陽だまりのような光を纏ったアゲハが清々しいほどの満面の笑みを浮かべながら俺達を出迎えたからだ。
その傍らには申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる汐と、手に負えないと言わんばかりに苦笑する遊馬がいた。



「おやおや、声も出せないとは。ふふっ、朝から僕に会えて感極まってしまったようだね。斯く言う僕も一刻も早く君に会いたくて朝食を摂るのも忘れてしまったよ、我が愛しのこま…、」



ピシッと、ドアを閉めた。
誰が最後まで喋らせてやるものか。
これ以上、調子に乗らせて堪るかよ。



「り、立夏くん…、怒ってる…?」

「怒ってないよ。ただうざったいなって思っただけ」

「相変わらず喧しいなアゲハは!」

「未空も大して変わらないと思うぞ」

「何でうちのクラスに九條院先輩がいるわけ?」

「はぁ…」



朝から面倒なのに絡まれてしまった。
体育祭と言うだけで気分がだだ下がりなのに、アゲハのせいで憂鬱な気分は免れない。



「……帰りたい」



無意識に口から出た言葉だったが、奴は聞き逃さなかった。
アゲハは内側からドアを開け放つと、後ろから俺の首に両手を巻き付けて来た。つまり後ろから抱き付かれているのだ、暑苦しい。



「そんな駒鳥のために僕がとっておきのものを用意したよ!」

「頼んでない」

「そうと決まれば早速準備に取り掛かろう!」

「人の話を聞けぇえええ!!」



有無を言わせぬ強引さに逆らえず、俺はアゲハに腕を引かれるがままどこかに連れて行かれた。


< 308 / 651 >

この作品をシェア

pagetop