歪んだ月が愛しくて2
第1走者の汐も、第6走者の未空も、相手と大差を付けて堂々の一着でゴールした。
「リカー!俺勝ったよ1位!応援してくれてありがとう!だーい好き!」
「おまっ、未空!何ちゃっかり立夏くんに抱き付いてんだよ!立夏くん、俺も頑張ったんだよ!立夏くんが応援してくれたお陰で1位取れたよ!」
ガバッと、両手を広げて正面から飛び込んで来た未空を片手で受け止める。
何で受け止めたかって?そりゃ後ろにいるオーケストラのためですよ。俺が勢い良く飛び込んで来た未空を避けたら間違いなく被害が後ろにいる人達にいくからね。
「ちゃんと見てたよ。お疲れ様」
学ランのポケットからハンカチを取り出してスッと汐の頬に当てる。
「汗掻いてる。良かったら使って」
「り、りり立夏くんっ!お、おお俺っ、1位取って良かった!」
「あぁぁあああ!汐だけ狡いっ!俺も汗拭いてよ!」
「ハッ、良いだろう!羨ましいだろう!」
「うっぜー!」
「そんなこと言ったって未空汗掻いてないじゃん」
「掻いてるよ!ほら、こことかさ!」
「それは涎だろう」
どんだけ食い意地張ってんだよ。
「だ、だって、もっとパン食べたかったんだもん!」
「美味しかった?」
「うん!美味しかった!後でこっそりリカの分も持って来てあげるね!」
「うん、いらない」
「何でー!?」と騒ぐ未空を横目に先程から感じる視線に顔を動かす。
「……何ですか、沖田先輩?」
沖田先輩はパン食い競走が始まった直後からチラチラと俺を見て来た。いや、観察していたのか。どちらにせよ良い気分はしない。
「え、何が?」
「いや、さっきから視線を感じるんですけど、何か俺に用ですか?」
「え、とー……用はないけどスゲーなって思ってさ」
「凄い?」
何が?
「いやさ、藤岡って結構有名人じゃん。だからもっと近付き難いイメージがあったんだけど、何かそうやってると年相応って言うか、意外にフレンドリーって言うか何か色々考えちゃってさ」
「……で?」
「俺とも仲良くしてよ」
「は?」
仲良く?俺と?
……何で?
「俺も立夏って呼んでいい?俺のことも好きなように呼んでくれていいからさ」
「………」
途端、沖田先輩の口調が砕ける。
元々畏まった人じゃなかったし一応先輩だから気にしていなかったが、そんなあからさまに態度を変えられると変に勘繰ってしまう。
「何それ?新手のナンパ?」
「……沖田さん、あからさま過ぎ」
そんな俺達の間に割って入って来たのは直近にいた未空と汐だった。