歪んだ月が愛しくて2



はぁ…、と通話口から深い溜息が聞こえる。



『擦れ違いってのはな、お互いに一歩踏み込まねぇといつまで経ってもそのままなんだよ』

「は、」

『まあ、俺様が言えるのはそれだけだ。精々頑張れよ』

「あ、ちょっ」



プープー…。

通話口から聞こえる機械音にイライラが増す。



「クソったれ!」



何が本人に聞いてみろだ。



(他人事みたいに…)



ぶん投げるだけぶん投げて後は放置するくらいなら初めから何もするなよ。首を突っ込んで来るなよ。
どうせ今更何かしたって、もう元通りにはならないんだから…。





『ああ。だって転入生はお前の弟だからな』





そう言われて、自分でも吃驚するくらい身体が強張った。



あの日のカナの言葉が、今でも忘れられない。



「兄弟じゃない、か…」



忘れようと思った。

でも忘れられなくて、ふとした時に思い出してしまう。



決して埋まることのない深い溝が、心臓を抉る。



「……そんなこと、分かってるよ」



分かってる。分かってるから。

お願いだから、それ以上は言わないで。

本当の兄弟じゃないことも、俺だけが仲間外れだと言うこともちゃんと分かってるから。

もう、これ以上、俺を嫌いにならないでよ。



「煩ぇ独り言だな」

「、」



その声にバッと身体を起こすと。



「ハゲるぞ?」



そこには扉に寄り掛かったまま気怠げに目を細めた会長が立っていた。



「な、何で、会長がここに…」

「俺が来たらマズかったか?」

「そうじゃないけど…、授業は?」

「サボった」

「ダメじゃん」

「お前こそ授業はどうしたんだよ?」

「……睡眠学習」

「一緒じゃねぇか」



そう言って会長はいつもの定位置には座らず、何故か俺の隣に座った。
その手には会長専用のマグカップが握られていた。



「……それ、自分で淹れたの?」

「他に誰がいる」



言い方が一々ムカつくな。


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