歪んだ月が愛しくて2
体育祭と気になる人
立夏Side
『障害物競争に出場された皆さん、お疲れ様でした。熱中症には十分気を付けてこまめに水分補給を行って下さい。次の競技は借り物競走です。出場される方は入場ゲートに集合して下さい』
そんなみっちゃんの声をBGMに、先に入場ゲートに集まったのは俺と未空だった。
未空は俺の姿を見つけるや一目散にこちらに向かって来て、俺を逃がさんとばかりに自分の腕の中に閉じ込めた。
「リカ〜、さっきはよくはカナちんと愛の逃避行してくれちゃったね〜」
「へ?あー…ごめん。ちょっとカナに話があって…」
「それって俺には言えないこと?」
「言えなくはないけど未空にはかんけー…じゃなくて、未空の知らない話だから聞いても面白くないと思うよ!」
「……ふーん。じゃあ今回は聞かないであげるよ。その代わりもう勝手にいなくならないでね」
「うん、分かった」
「(本当に分かったのかな…)」
そんな未空の心境も知らずに、俺はカナとの会話の内容を誤魔化せたことに安堵していると葵が小走りでやって来た。
3人が揃ったところで俺はずっと胸に抱えていた疑問を口にした。
「……あのさ、今更だけど借り物って何やんの?」
聞こう聞こうと思って今まで聞けなかったことを思い切って2人に打ち明けた。
何でこのタイミングでと思うかもしれないが、この方がダメージが少なくて済むからだ。
だって。
「え………えええぇえええ‼︎りっ、立夏くん、借り物やったことないの!?」
「うっそ!?体育祭の定番なのに!?」
ほらね。こう言う反応されると思ったから皆の前で言いたくなかったんだよ。
大体、小学校の運動会だって3回くらいしか出たことないのに、今更その時のことを思い出しながらやれって結構な無茶振りだと思うんだけど。
それでなくてもあの頃の記憶はパズルのピースのように曖昧で、不揃いで、歪なものだった。
思い出したくても思い出せない記憶も、思い出してはいけない記憶も。
「じゃあリカには俺が手取り足取り腰取り教えてあげましょう!むふふふっ!」
「未空くん、何かおじさんみたいだよ変態の」
「誰が変態親父だぁあああ!アオのくせに生意気な!そんなことを言う悪い口はこの口かぁ!?」
「いひゃい、いひゃいよ…っ」
「痛くしてるんですー!」
未空は葵の頰を引っ張りながら「ヒャッハハッ」と高笑いする。
……うん、確かに変態っぽい。
てか、戦隊モノの悪役っぽいな。
その後、葵をイジメて満足した未空は借り物について説明してくれた。
「指定されたものを誰かに借りて一番早くゴールした人が勝ち」と超簡潔に説明してくれたが、何でも聖学の借り物は中々厄介なものらしい。
未空と葵は「それ以上言ったら面白くないから」とか何とか言って説明を省くから、結局競技が始まるまでその“厄介”の意味が分からなかった。