歪んだ月が愛しくて2



「負けず嫌いですか」

「おや、君は違うのかい?」

「ちが、わないですけど…」



そう言うとアゲハさんは満足げに微笑んだ。
口に出さなくても伝わる、アゲハさんの感情。
それは俺がアゲハさんの“影”だからか、それともアゲハさんが分かり易いだけなのか。
アゲハさんは覇王に一矢報いた達成感から上機嫌で立夏が待っているであろうグラウンドへ早足で向かった。



そんなアゲハさんの後を追いながら、チラッと後ろを振り返る。
立夏が消える発言をしたせいもあり、神代会長の動向が気になって仕方ない。
多分、神代会長はあの日のことを立夏に直接当たっていない。
あの日以来、立夏もことある事に理由を付けて神代会長から逃げていたようだからまともに話したのは今日が初めてだろう。
ただこのままってわけにもいかない。
何れ痺れを切らした神代会長が立夏に問い質すかもしれないし、立夏も立夏であの気まずい空気には耐えられないだろう。



それに…、





『―――気を付けろ。鼠が潜り込んだ』





嫌な予感がする。



鼠の狙いは何だ?

何故、立夏は鼠の存在に気付いた?

あっちから接触して来たのか?



……いや、それなら俺も気付くはずだ。



立夏は勘だと言っていたが、ああ言う時の立夏は一番信用ならない。
1人で全部背負い込んで、何でもかんでも自分1人で解決しようとするからな。
どうせ俺達に迷惑を掛けたくないとか思ってんだろうが、その考え自体が迷惑だってことにまるで気付いてない。
でも唯一鼠の存在に気付いたのは立夏だけ。今は立夏の言葉を信じるしかない。



(歯痒いけどな…)



鼠の動きが読めない。

こんな大勢の生徒が動き回る中で、鼠は一体何をしようとしているんだ。


























「―――どうします?」

「どうもこうもねぇよ。まさか九條院があんな好戦的な奴だったとはな。あれが“B2”総長の顔ってか?お陰で王様の機嫌が超絶最悪だわ」

「でもさ、好戦的って言うか…、俺にはでっかい子供みたいに見えたけどな。何かムキになってみーこと張り合ってたし」

「俺とじゃなくて、俺にだろうが」

「そうとも言うね」

「結局、あの刺繍は何だったんだよ。尊をおちょくるために入れたのか、それとも文面通りりっちゃんは“B2”のもんだって言う牽制のためか?」

「どっちもでしょう。流石にあそこまであけすけな手に出るとは思わなかったから驚いたけど」

「尊、九條院くんが言っていた“余計な詮索”とはどう言う意味ですか?」

「……さあな」

「あ、誤魔化した」

「それで誤魔化したつもりかよ。オメーが黙り決め込むと話が進まねぇだろうが」

「挑発されて面白くないのは分かりますが、立夏くんのことであればきちんと話してもらわないと」

「そうだよ!リカは俺達の仲間なんだから俺達にも知る権利があるだろう!」

「そんなに知りたきゃ九條院に聞け。俺も戻る」

「戻るって、生徒会室にですか?」

「……いや」

「まさか真面目に体育祭に参加するとか?お前が?」

「悪いか」

「どう言う風の吹き回しですか?気持ち悪い」

「おい」

「あ、もしかしてみーこもリカの勇姿が見たいとか?そう言えばさっきリカの学ラン姿見た時、ちょっとときめいてたでしょう!でもアゲハからプレゼントされたものだって分かってメチャクチャ嫉妬してたよね?ねぇねぇ!どーなのさ?やっぱりみーこってばムッ…痛っ!」

「喧しい。誰がムッツリだ」

「最後まで言ってないじゃん!」





嫌な予感がする。



そんな予感が脳裏に過ぎったのは、きっと俺だけではない。


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