歪んだ月が愛しくて2
その意味が分かったのは、競技が始まって少し経ってからだった。
「………厄介だな」
グラウンドで駆け回る生徒達を入場ゲートから眺める。
彼等は必死な顔で大きな声を張り上げて、各々が指定されたものを探し求めている。
その中には第2走者の未空もいた。
猿みたいな黄色い声が響き渡るグラウンドを駆け抜けて、真っ先にお題の入った箱に手を入れた未空は紙を広げてお題を確認すると、その紙を持ってキョロキョロと周囲を見渡してから応援席に向かって大きく手を振った。
「誰かー!鼻眼鏡持ってる人いなーい?」
いるわけないよね。
逆に持ってる人がいたら吃驚だわ。
当然そんなものを常備している人は誰もいなかった。
ただ他の生徒達も同様に苦戦する中、未空だけは覇王パワーを存分に発揮して、親衛隊の連中を呼び付けて鼻眼鏡を調達させに行った。
親衛隊は未空に頼られたことが嬉しかったのか「未空様にお願い事されたの初めて…、嬉しい…」とか「やっと声を掛けてもらえた」などとどこか放心状態の様子で目当てのものを探しに走った。
そう言えば未空や他の覇王が親衛隊と絡んでるところって見たことなかったかも。だからこの光景には俺もちょっと驚いた。白樺や恐極のことがあったから俺のせいで未空の親衛隊嫌いに拍車を掛けてしまったかと思ってたけど、どうやら大丈夫みたいだな。
「仙堂汚ぇぞ!正々堂々と勝負しやがれ!」
安心したのも束の間、未空のやり方に他の第2走者からブーイングが入った。
全くもってその通りだと思うが、当の本人はケロっとしていた。
「だって皆が俺にプレゼントしたいって言うんだもん。受け取ってあげなきゃかわいそーじゃん」
この性悪が。
やっぱり未空は自分の特性をよく理解している。
そりゃGDじゃなくても恨まれるわな。
「ねぇ、厄介でしょう?」
クスクスと、葵が愛らしく微笑む。
可愛い……じゃなくて、全然笑えないから。
寧ろ次出番なのによく笑えるね。
俺なんてもう逃げ出したいくらいなんですけど。
『ここで仙堂選手が一着でゴールしました』
えっ、もう鼻眼鏡ゲットしたの?
てか、よく調達出来たな。
「……凄い」
色んな意味で。
『他の選手の皆さんは未だお題のものを入手出来ないでいる様子ですが、借り物競走の制限時間は5分間となります。それまでにゴールテープを切れなかった方は失格となりポイントは加算されませんので、皆さん最後まで諦めずに全力で頑張って下さい』
みっちゃんのアナウンスが聞こえる。
公平な立場であるみっちゃんからしたら当たり障りのない言葉を並べているんだろうが。
「誰かー!誰でもいいからこの中に女子高生はいませんかー!?」
うん、もう諦めろ。