歪んだ月が愛しくて2
「未空くんは嘘吐きだね」
ふと、後ろから声がした。
その声は当然アオのものだったけど、リカのことばっか考えててアオのことを忘れてたから急に声を掛けられて内心驚いた。
「……え、急に、何?」
しかも俺が嘘吐き?
どゆこと?
「何にも感じないなんて、嘘ばっかり」
あー…、そのことか。
「嘘じゃないよ。今はもう誰に何言われても何も感じない。だからいくら非難されようが構わないし気が済むだけどうぞって感じ」
「それは自分のことだから無意識に我慢してるだけじゃないの?」
「………は、」
我慢?
「な、に言ってんの…。何で、俺が我慢しなきゃいけないわけ?意味分かんないんだけど」
訝しげにそう答えればアオは意外にも食い付いて来た。
「じゃあ、どうしてそんな顔してるの?」
「は?そんな顔ってどんな顔だよ?」
「立夏くんことが大好きって顔だよ!だから立夏くんと喋る先輩達のことをそんな羨ましそうな顔して見てるんでしょう!」
「、」
アオの叫ぶような声に思わず肩が跳ねた。
図星を突かれたからじゃない。
滅多に声を荒げないアオが怒っていたからでもない。
「お、れ…」
『間もなく1分を切ろうと………あ、ここでC組の藤岡選手に動きがありました』
拡声器から聞こえて来るみっちゃんの声に視線をアオからグラウンドへと移すと、そこには尊の手を引いてグラウンドを駆けるリカの姿があった。
『な、何と藤岡選手っ、あ、あああの、みこ…神代生徒会長の手を取って走っております!ああ、羨ましいっ…じゃなくて何て恐れ多いことを!?コラッ藤岡ぁあああ!!尊様に失礼なことしたら承知しないんだからねぇええええ!!』
「ギャァアアア!尊様が手を…、手を…っ!」
「いくら尊様の温情で生徒会に入れてもらえたからってそれは調子乗り過ぎだろう!てか羨ましいぃいいいい!」
「僕も尊様と手を繋ぎたいのにっ!」
「ブサイク眼鏡のくせに!オタクヤンキーのくせにっ!」
「団服のお陰でちょっと格好良くなったからって調子に乗ってんじゃないよ!」
周囲から断末魔のような悲鳴が次々と挙がる。
耳を塞ぎたいくらい煩いのに、目を背けたい光景なのに、目の前の2人から目が逸らせなかった。
サラサラと風に靡く、黒と金の髪。
ふわりとはためく、黒い学ラン。
固く繋がれた手と手。
そんな2人を見て、何故か―――、
「……アオ、俺………嘘吐いた」
酷く、痛かった。
そして2人は黄色い叫び声が響く中、他の選手に大差を付けて手を繋いだままゴールテープを切った。