歪んだ月が愛しくて2



結局、借り物競走は僅差で負けてしまった。
現在C組の成績は芳しくなくトップをキープするA組に大差を付けられていた。
何でS組じゃなくA組がトップなのかって?
それは家柄だけじゃカバー出来ない部分をA組の皆さんが持ってるってことだよ。定期テストとは違って体育祭に勝利するために必要なのは頭脳じゃなくて運動神経だからね。



そんな中、騎馬戦が始まった。
全校生徒強制参加(覇王を除く)の騎馬戦は1年から3年までのクラス対抗戦だ。
俺達の対戦相手は2年A組。
相手が先輩だろうと誰であろうとやることは変わらない。
前の試合が終わるまでの数分間。俺達は待機場所で準備運動したり談笑したりしていた。



「リカ、一緒に頑張ろうね!」

「お、俺っ、立夏くんのこと守るから!絶対落とさないから安心してね!」

「んー…言い辛いんだけど騎手は僕だからね」



騎馬戦は4人一組の騎馬を作り騎手の頭に巻いた鉢巻を相手より早く奪うことで勝敗が決まる。
俺は未空、汐、葵と騎馬を作ることになり当然4人の中で一番体重の軽い葵が騎手となり鉢巻を巻いてもらうことになった。



そして、もう一方の騎馬が…。



「面倒臭ぇ…」

「それ今言う?これから始まるのに?」

「頼稀くんはまだ1種目ですよね?」

「ちょっと!面倒臭いからって僕のこと落とさないでよね!」



馬は頼稀と希と遊馬、騎手はみっちゃんがやるらしい。

みっちゃんが騎手………うん、違和感ないな。流石女王様だよ。



「駒鳥!」



その声に視線をずらすと応援席の一際目立つ集団の中に一際目立つ奴を見つけた。



「駒鳥!1年C組の諸君!頑張ってくれたまえ!」

「立夏!怪我すんなよー!」



アゲハと沖田さんは応援席の最前列から身を乗り出してこちらに向かって大きく手を振った。
さっきもそうだけど応援してくれるのは有難いよ。でもさ、そんな目立つ格好でそんな大きな声で叫ばれたらこっちは居た堪れないんだよね。そこんとこ全然分かってないでしょう。いや、アゲハみたいな目立つこと大好きな人間には到底理解出来ない感情かもしれないけど、もう少し、もう少しだけでいいからこっちのことも考えてよ。すっごい恥ずかしいから。



「やめてー。俺の名前を叫ばないでー」

「アゲハさんに加えて総一郎さんまで…」

「あの人、ここぞとばかりに立夏くんにアタックしてねぇか?」

「まあ、鈍感な立夏くんにはあれくらいあからさまにやらないと伝わらないだろうけど」

「何あの先輩?花房2号なの?バカなの?」

「汐より積極的じゃん。ヘタレそうだけど」

「ああっ!さっきの奴じゃん!また俺のリカにちょっかい掛けやがって!ちょっとぶっ飛ばして来るわ!」

「待って未空くん!早まらないで!」



収拾が付かなくなりそうだったのでとりあえずアゲハと沖田さんの声援に応えるように控えめに手を振ると、彼等とは別のところから「キャー!!」とか「うぉおおおお!!」とか耳を裂くような複数の声が飛んで来た。
何事かと思いキョロキョロと首を動かして周囲を確認するも音の出所は判明しなかった。
そのため隣にいた頼稀に「何これ?」の意味を込めて見上げると、何故か頼稀は眉間に皺を寄せて…。



「蛆虫共め…」



と、静かに怒っていた。



何で?















「あーあ、立夏の奴絶対気付いてないよ…」

「立夏くんだもん、仕方ないよ。まさかこの歓声が自分に向けてのものだとは夢にも思ってないんじゃないかな」

「はわわわ…っ、そんな恥ずかしそうに可愛く手振ったら野郎共の餌食になっちゃうよ!」

「そう言う汐もオカズにするんでしょう、立夏くんのこと」

「なっ!?」

「はい、汐死刑。そんでもって今の可愛いリカを見た奴も覇王権限で全員処刑しまーす」

「そんな特権あったの?」



頼稀の団服を引っ張りながら何で?何で?と質問する後ろでそんな会話がされていたことに俺は全く気付かなかった。
しかも俺が頼稀の団服を引っ張る姿が更に彼等を刺激していたことにも。


< 368 / 652 >

この作品をシェア

pagetop