歪んだ月が愛しくて2
「お待ち下さい!」
その声にこの場にいる全員が振り返った。
また煩いのが来た、と思ったら。
「九條院様がいなくなってしまったらC組の士気が下がってしまいます!風魔くんだって応援団の一員なんですからそう簡単にここを離れられたら困りますよ!しかももうすぐリレーが始まるんですから藤岡くんを保健室に連れて行くのはリレーに参加しない人でお願いします!」
(やっぱり煩かった…)
はぁ…と、無意識に溜息が漏れる。
しかも三橋先輩の登場に嫌な顔をしたのは俺だけではなかった。
頼稀は本人に聞こえるように大きく舌打ちをして、沖田先輩はあからさまに嫌な顔をして「空気読めよ」と声を漏らし、アゲハは表情に出さないものの「やれやれ…」と呆れていた。
でも三橋先輩だけは彼等から邪険にされていることに気付いていないようだった。おめでたい。
そしてもう1人。
三橋先輩に訝しげな視線を向ける男がいた。
「……は?誰コイツ?何勝手に沸いて来てんの?」
汚物を見るような蔑んだ目と低い声。
未空は頼稀達以上に三橋先輩を邪険にしていた。
「え、あ、僕は…」
「てかアンタが誰であっても別にどうでもいいけどさ、急に現れて勝手に話に入って来んなよ部外者のくせに。しかも何ちゃっかり指図してんの?アンタ何様?」
「さ、指図なんて…っ。僕はただC組のことを考えて言っただけです!君達全員が藤岡くんについて行ったらリレーまでに帰って来れないかもしれないし、そうなったら困るのはC組の寮長である九條院様なんですよ!」
「だから?アゲハのことなんてどうでもいいんだけど」
「どうでもいい!?九条院様に向かって何てことをっ!!」
「だからどうでもいいって」
煩い。煩過ぎる。
これでは先程以上に目立ってるじゃないか。
ふざけんなよおい。マジで帰るぞこの野郎。
「今の内に行くよ」
グッと、白樺は俺の学ランを引っ張って保健室に行くように急かす。
「……やっぱ行かなきゃダメ?」
「別に保健室行くくらいわけないでしょう。何もなかったらすぐ帰って来れるんだし」
「それはそうだけど…」
保健室に行きたくない理由。そんなの一つしかない。
でもそれを誰かに伝えるつもりはなかった。
チラッと、左の足首を一瞥して。
「はぁ…」
観念した。
まあ、なるようになるか。