歪んだ月が愛しくて2



「頼稀」

「どうした?」

「保健室、白樺と行って来るわ」

「だったら俺も」

「頼稀はこっちを頼む。未空のこと抑えられるのは頼稀しかいないし」

「だったら汐と遊馬を連れて行け」

「汐はリレーの選手だからダメ。遊馬も補欠に選ばれてたし、万が一俺が使い物にならなかった時は遊馬に代役を頼みたいから」

「今の状況で単独行動は危険だ。お前だって分かってるだろう」

「だからだよ」

「あ?」

「こんな状況だから汐と遊馬には未空達のことを頼みたい。じゃないと俺も頼稀も身軽に動けないだろう?」

「それは、そうだが…」



頼稀は複雑そうな顔をする。
想像通りの表情に思わず笑いそうになった。



「アゲハ」



その名を呼ぶとアゲハは当然のように俺の隣までやって来た。



「外周は?」

「鼠取りの準備は整ったよ。後はどう罠に誘い込むかだが…」

「正直言ってノープランだけど、だからこそアゲハには皆のことを頼みたい」

「勿論さ。君の大切なものは必ず守ってみせるよ」



(大切なもの、か…)



スッと、視線を横にずらす。



「もう、ダメだよ未空くん。相手は先輩なんだよ」

「まあ、立夏至上主義な未空らしいけどな」

「てか正論じゃね?未空が言わなかったら俺が言ってたし」

「珍しい。汐がまともなこと言うなんて」

「無駄に揉めないでくれない、面倒臭いから」

「面倒臭いってどう言うことだよ!?」



あの頃に比べて、見える景色が大分変わった。
月よりも太陽を拝む頻度が増えたし、忌々しいこの世界が色付いて見えるようになった。



「駒鳥?」



ただ一つ変わらないのは…、



「……じゃ、後は宜しく」



つくづくバカだと思う。

失くすことに怯えて、でもそれに救われて、また失くすことに怯える。その繰り返し。

本当、バカとしか言いようがない。



「行こっか」

「ああ」



大切なものに背を向けて、俺は白樺と共に保健室へ向かった。





暗く、冷たい衝動を誤魔化すように。


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