歪んだ月が愛しくて2
◇◇◇◇◇
西棟の屋上から地上を見下ろす影が一つ。
その視線の先には、西棟に併設された倉庫の前に立つ2人の男子生徒を捉えていた。
その姿を確認して満足げに口角を上げる。
計画は順調。
ただキャストに少々不安はあるが、それに伴うこちらのリスクは回避済みだ。
後は各々がやりたいようにやればいい。
復讐も、気晴らしも、くだらない嫉妬も、僕には関係ないことだ。
ただ一つ、確認したいことがあった。
そのためだけにこんなくだらない茶番に付き合ってやっているのだ。
「―――そこで何をしている」
「、」
肌を刺すような冷たい声に、一瞬背筋がピンッと伸びた。
何度聞いても慣れない。
無機質のように冷たくて、そのくせ男女問わず人の心を一瞬で支配してしまう。
ゆっくりと振り返る。
「……貴方こそ、何故こちらに?」
視線だってそう。
オッドアイの瞳に凝視されたら一瞬で思考が奪われるし、仕草一つ一つを見逃すのが惜しくなりそうなほどの妖艶さを纏い、直に本能に訴えて来るかのように無意識に目で追ってしまう。
「質問しているのは俺だ」
何より存在感が凄い。
凡人には有り得ない気迫。
同じ空間にいるだけで、全てを支配する覇者のオーラ。
それくらい凄まじい存在感を露わにしていた。
「ただの気分転換ですよ」
それが、僕達の王。
魑魅魍魎の主。
「次は僕の質問に答えてもらえますか?」
「……外が、騒がしい」
「外?」
「何者かが侵入した」
「………」
流石としか言いようがない。
この僅かな違和感を察知するとは。
「それを態々確認しに来たと?」
「ああ」
でも悟られるわけにはいかない。
今、彼に知られてしまえば計画が水の泡だ。
「そうですか。では僕の方でも探ってみますよ」
ゆっくりと足を進めて、彼の横を通り過ぎる。
必要以上に彼と一緒にいてはいけない。
恐極のことを悟られては面倒だし、彼の許可なく部外者の侵入を手引きしたことが知られれば制裁を受けるのは自分だ。
何より、彼の隣は息苦しい。
あまりにも整い過ぎた顔に恐怖さえ抱く。
そう、彼等は似ていた。
月の光のベールを纏ったような銀髪に、鮮血のような深紅の瞳を宿す、白き鬼と―――。
「ああ、それと知ってますか?」
だから、つい尋ねてしまった。
「最近よく噂を耳にする、藤岡立夏くんのこと」
「………」
疑惑の、彼のことを。