歪んだ月が愛しくて2



「へぇ…、随分とお熱上げてるみたいじゃん」

「野暮なことは聞くもんじゃありませんよ」

「言ってろ」

「おや、否定しないんですね」

「王様も可愛いとこあんじゃねぇの」

「死にてぇのか?」

「陽嗣の性格は一度死んだくらいでは治りませんよ」

「人を勝手に殺すな。オメー等が言うと冗談に聞こえねぇんだからよ…」

「あははっ、僕が冗談なんて言うと思いますか?」

「(だから怖ぇんだよ!)」

「おい、夫婦漫才なら余所でやれ」

「はぁ!?誰と誰が夫婦だ!?」

「陽嗣と一緒にされるのは心外ですね」



そうは言うが例えは間違ってないはずだ。
俺が気付いてないとでも思っているなら2人揃ってとんだ間抜けだな。



「…、ん……」



ふと、立夏が目を醒ます。



「ん、おれ…」



夢と現実の区別が付いていないのか、目を擦りながら上目遣いで俺を見つめる立夏の姿に思わず目を逸らした。



「……お前、それやめろ」

「それ?」



その顔で無闇に首を傾げるな。
こっちを見るな。……いや、俺以外誰も見るな。



「王様は素直じゃねぇな。可愛いなら可愛いって言えばいいのによ」

「それが尊じゃないですか」

「……煩ぇ」



確かに否定出来ない俺も俺だが、テメー等にだけは言われたくねぇんだよ。



「あれ、先輩達もいつの間に…」

「りっちゃんが寝てる間にな」

「大分疲れてたみたいですね」

「そ、なことないですよ。俺はいつも元気ですから…」

「………」



寝起きで、しかも泣いた後で無理して笑顔を作る立夏が何とも痛々しく映る。
そんな立夏の不自然さに気付いたのは俺だけではなかった。



「……そうですか。でも無理してはいけませんよ。何かあったらいつでも相談して下さいね」

「九澄先輩…」

「そうそう。りっちゃんが元気ねぇと何だかしっくり来ねぇんだわ」

「きっと未空もそうだと思いますよ」

「そこにいる王様もな」

「………」



ギュッと、口元をきつく結ぶ立夏。

何かを必死で堪えるように顔を伏せてテーブルの下で俺の手を握った。



「大丈夫だ」

「っ、」



怖くてもいい。

今はまだ信じられなくても、いつか必ず…。


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