歪んだ月が愛しくて2
「飛鳥院の人間と立夏くんが顔見知りなのであれば話が早いですね。どうせ理事長にバレるのは時間の問題ですから、理事長を通して飛鳥院に連絡を取ってもらいましょう」
「段取りはお前に任せる。それと白樺の聴取はどうなってる?」
「ああ、それでしたら…」
「そっちは俺が話聞いといたぜ。何でも3日前くらいに知らねぇ奴から呼び出されて恐極からの手紙を渡されたらしい。そこにはりっちゃんに謝りたいとか何とか…、まあクソみてぇな内容が書いてあって、結果的に白樺は恐極の願いを聞き入れた。あ、証拠としてその手紙は預かったぜ。そんで体育祭のどさくさに紛れてりっちゃんを保健室に連れて行き、そこで予め用意していたペットボトルのお茶を飲ませ、その後西棟の倉庫に連れて行く予定だったらしいが…」
「恐極は白樺くんに計画の全てを話していなかったようです。自分が用意したお茶を薬入りのものにすり替えられたことも、恐極が立夏くんを陥れようとしたことも知らされていませんでした。でも白樺くんの話を聞いた立夏くんが恐極の思惑を察知し、恐極の狙いを見極めるために2人で倉庫に行ったそうです。その後は立夏くんの指示通りに一芝居打って、隙を見て助けを呼びに行く手筈だったようです」
「待って、何それ…、薬入りって…、」
「……成分については鑑定中ですが、立夏くんの様子から想像するに恐らく媚薬の一種でしょうね」
「っ、マジで許さねぇ!やっぱりアイツ等ぶっ殺してやる!」
「だから落ち着けって。オメーが騒いだって何の解決にもなんねぇだろうが」
「落ち着けるわけねぇだろう!リカが…っ、俺達の仲間が傷付けられたんだぞ!寧ろ何で落ち着いてられるんだよ!?意味分かんねぇよ!何でそんな平気な顔してられ…「未空」
「っ、」
途端、未空の肩がビクッと跳ねた。
「アイツを傷付けられて平気な奴が、ここにいると思うか?」
「、」
未空の表情が歪む。
苦虫を噛み潰したような表情は次第に泣きそうな表情へと変わり、ソファーの上で体育座りをして膝と膝の間に顔を埋めた。
「だって…、俺、悔しくて…っ」
「………」
そんな未空の頭に手を置く。
必死で感情を押し殺そうとする姿勢に未空の成長を感じた。
「立夏は大丈夫だ。薬を摂取して一時的に症状は出ていたが、今は落ち着いているし連中に何かされた様子もなかった。安心しろ」
「ほんと…?リカ、アイツ等に何もされてないって、そう言ってたの?」
「ああ」
「よ、かった…。ああぁぁあああ!もうマジでリカが無事で良かった!何か安心したら泣けて来たぁ!」
未空はソファーの上に置いていた四角いクッションを手に取って、泣き顔を隠すかのように勢い良くそれに顔を埋めた。
「さっすがパパ、頼りになるねぇ。てか、媚薬の症状が出てたりっちゃんをどうやって落ち着かせたのかその辺の説明はないわけ?(笑)」
「未空、そんなにぶっ殺したかったらまずは陽嗣を殺れ。俺が許す」
「え、いいの?」
「いいのじゃねぇよ!全然良かねぇわ!マジになってんじゃねぇよこのバカ猿!」
「誰がバカ猿だ!このエロガッパ!いいからとっとと俺のサンドバッグになりやがれ!」
「誰がオメーのサンドバッグだこの野郎!」
「フッ、お父さんも楽じゃありませんね」
「……煩ぇ」
シミったれた面を拝むくらいなら喧しい方がまだマシだ。