歪んだ月が愛しくて2
「安心しなよ、殺してはないから。ただいつ死んでも可笑しくない状態ではありますけどね」
「……そう、か」
恐らくその言葉に嘘はないだろう。
あれほどのことをした恐極を風魔がのうのうと生かして置くはずがない。
「他には何が知りたいんですか?」
「……恐極をどうするつもりだ?」
「随分と抽象的な物言いですね、アンタらしくない。……いや、逆にアンタらしいのか。まあどうでもいいけど、聞きたいことがあるならはっきり言ったらどうですか?」
「お、おいおい、何イラついてんだよ?オメーがピリピリしてっとこっちまで影響出んだけど」
「別にアンタ達には関係ない。ただ何も出来ない無力な自分にムカついてるだけなんで」
「……何で?頼稀は何も出来なくなんかないじゃん。リカのために必死に動いてくれてるじゃん。だから恐極のことが許せなかったんでしょう?そんな恐極を野放しにしていた俺達のことも…」
「覇王の判断は間違っていない。俺が同じ立場でも立夏の意志を尊重してあの程度に留めていたはずだ、……表向きはな。俺がイラついてるとしたら、それは本当に自分に対してのものだ。立夏が鼠の存在に気付く前にどうして気付けなかったのか…、もし俺達が最初に気付いていれば立夏を巻き込むことなく対処することが出来たかもしれない。そう思うと自分が不甲斐なくてムカつくんだよ」
「頼稀…」
「同情はすんなよ、そう言うのうぜぇから。それと恐極が欲しかったらいつでも引き渡す準備は出来てるから」
「生死は問わず、か…」
「いや、殺すつもりはありませんよ。殺してやりたい気持ちは山々ですが、生きながらに死にたいと思わせてやった方が長く苦痛を味わせることが出来ますからね。だから神代会長が許してくれるならそっちの筋に売り飛ばしたいと思ってるんですけど」
「構わない。立夏に繋ぎ止められた命を無駄にした愚か者には相応の罰だ」
「アンタならそう言ってくれると思ってましたよ」
「決まりだな。後は恐極組への制裁だが…」
「あ、そのことだけど、ちょっと面倒なことになったからアンタ達は首突っ込まない方がいいですよ」
「面倒?」
「それはどう言う意味ですか?」
「いや、それが……、面倒な奴がしゃしゃり出て来たって言うか、あっちもかなり怒り狂ってるって言うか…」
途端、風魔は焦ったような困り果てた表情を見せ、反対に九條院は口元を緩めて苦笑した。
その表情から察するに“あっち”の存在に気付いていないのは俺等だけのようだった。
「ねぇ、あっちってどっち?怒り狂ってるってどう言うこと?」
「俺達にも分かるように説明しろよな」
チラッと、風魔は九條院の顔色を伺う。
すると九條院は返事の代わりに笑みを深めた。
それが答えか。