歪んだ月が愛しくて2



◇◇◇◇◇





深い霧が立ち込める深夜、大きな屋敷の前に1台の高級車が止まった。
世間では高級車の部類に入る黒塗りフルスモークのセルシオがヘッドライトを消すと、重く冷気を纏う濃霧の中から助手席のドアが開いた。



「……おいおい、やけに静かじゃねぇか。本当にここで合ってんのか?」



黒のスーツをビシッと着こなす男はスキンヘッドにサングラスと言った如何にもな風体で、車から降りるなり懐に手を入れて鈍い輝きを放つ拳銃を把持し落ち着いた動作で辺りを警戒する。
悲鳴も、銃声も、サイレンの音も聞こえない。
その上濃霧のせいで通行人すら見当たらない。
こんな深夜の時間帯に外出する人間など早々いないが、この場所が一際閑散としている理由は他にもあった。



バタンと、ドアの閉まる音がする。



「合ってるよ。俺がここまで送ったんだから」



次に運転席から降りて来たのはスキンヘッド男と対照的なアッシュグリーンの美青年だった。
年齢はまだ若く未成年のように見えるが無表情で落ち着いた様子から大人びた印象を与えた。
しかしその身に纏うのはスキンヘッド男同様の黒のスーツ、左脇のホルスターには黒光りする拳銃が収まっていた。



「あのな、お前は若の元に来てまだ日が浅いから知らねぇだろうが、若がああなった時は勝手に動かないでまずは俺か上役の誰かに相だ…「無理だろう」

「最後まで言わせろよ!」

「誰に相談したって結果は一緒だろう。どうせ誰も動きやしないで見て見ぬふり。我が身可愛さでな」

「そりゃ…」

「別に責めちゃいねぇよ。ああなった時のアイツを止められるのはあの方しかいない…。それに俺も奴等が許せないし」

「、」



許せないと、そう言った青年は内に秘める感情を顕にすることなくその瞳に仄暗い炎を宿す。
「目は口ほどに物を言う」と言ったものだが正しくその通りだった。



「はぁ…、若がお前を指名するわけだよ」



男達は横並びで歩きながら観音開きの門を潜ると静かに声を漏らした。
そこは目を背けたくなるような地獄絵図と化していた。



「おい、これ…」

「ほぼ死んでるね」



屋敷に足を踏み入れた瞬間、男達は眉を顰めてスーツの袖で鼻を覆った。
鼻に抜けるのは生臭い鉄の臭いと焦げたような臭い。
正に血の海と言っても過言ではない光景だった。



「ほぼって…、生き残り、いるか…?」



屋敷の入り口から長い廊下に掛けていくつもの屍が転がっていた。
殴られて顔面の原型を留めていない者もいれば、四肢の骨が明らかに折れている者、皮膚から骨が突きで出ている者、首の骨が折れて顔が真後ろに向いている者、脳味噌や内臓が飛び散っている者などが散見された。
そんな屍を避けながら血溜まりを踏み締めて奥へ奥へと足を進める。



「―――ぁん、ああっ」



微かに聞こえた声に男達は足を早めて最奥の襖を蹴破った。
その瞬間、銃声が響くのと同時に血飛沫が飛び散った。


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