歪んだ月が愛しくて2
「これからどうしよ…」
診察を終えて別荘を出た後、俺は行く宛もなく雑木林の中を彷徨っていた。
これからのことを考える前に、そもそもここがどこなのかも分からない。
別荘までは哀さんの運転する車で来たから事前に地理を把握しておらず、ここがB県であること以外何も分かっていなかった。
しかも辺りは木々ばかりのため、少し歩いたところで近くに面白そうなものがあるとは到底思えなかった。
ただ空気が澄んでいて、いい場所だと思った。
都会とは全然違う。
偶にはこう言うところも悪くない…と思ったものの、聖学の環境もここと大して変わらないことに気付いた。
聖学と言えば、体育祭はどうなったんだろうか。
どこのクラスが優勝したのか、うちのクラスは優勝出来たのか気になることは山ほどあるが、何よりも最後まで皆の応援が出来なかったことが残念でならなかった。
(折角アゲハが応援団に誘ってくれたのに…)
しかも態々作ってくれた団服もボロボロにしてしまった。
それに結局リレーにも出れなくて、こんな俺なんかをアンカーに推薦してくれたクラスの皆に申し訳なくて合わせる顔がなかった。
(帰るに帰れないな…)
謝って、土下座したら、許してくれるだろうか。
『リカー!俺勝ったよ1位!応援してくれてありがとう!だーい好き!』
『り、りり立夏くんっ!お、おお俺っ、1位取って良かった!』
『藤岡くんごめんな!折角応援してくれたのに結果残せなくて…』
……許して、欲しいな。
またあんな風に笑って欲しい。
でも、それをぶち壊したのは紛れもない俺自身。
やっぱり俺には“友達”なんてハードルが高過ぎたのかもしれない。
一度は諦めたはずのそれに縋ろうなんて調子が良過ぎたんだ。
だから、こんなにも諦めきれない自分がいる。
格好悪く足掻いて、無様に縋る自分が―――…。
「とりあえず、湖だな」
そう自分に言い聞かせながら、俺は鉛のような足を動かして雑木林を歩き進む。
「着いた…」
一面に広がる、広大な湖。
別荘から見た時も凄いと思ったが、近くで見ると圧巻だった。
折角なので少し湖の周りを歩いてみることにした。
「気持ち良い…」
爽やかな風が頬を撫でる。
……落ち着くな。
さっきまでの気持ち悪い感覚が嘘みたいだ。
久しぶりに見た白衣に、何も感じなかったと言えば嘘になる。
あの色が、あの薬品のような臭いが、蓋をしたはずの記憶を呼び起こした。
(あからさま過ぎた、よな…)
忍足先生には悪いことをした。
あんな嫌な態度を取るつもりはなかったのに。
でもあの色を視界に捉えた瞬間、あの臭いが鼻腔を擽った瞬間、条件反射みたいにあの日の光景が脳裏に蘇って来た。
大切なものが目の前で壊される、あの光景が。