歪んだ月が愛しくて2
「お前達が知りたいのはリツが喧嘩出来る理由だったな」
「教えてくれるの?」
「俺様が言える範囲でだったら教えてやるよ。ま、アイツが喧嘩出来るのは大した理由じゃねぇけどな」
大した理由じゃないなら初めから教えてよ…、とは言わないけどさ。
あそこまでヨージを責めなくても良かったんじゃないかと内心思ってしまった。
まあでも大した理由じゃないってことは、理事長は“化け物”って方に過剰に反応したわけか。覚えておこう。
「要はあれだ、“可愛い子には旅をさせよ”ってやつさ」
………うん。
「全然分からない」
つまらなそうに口元を窄める俺を見て九ちゃんが苦笑する。
「つまり、立夏くんは武道を習っていたんですか?」
「武道なんてそんな大層なもんじゃねぇよ。あれは姉さんが独学で身に付けたただの喧嘩のやり方だからな」
「理事長のお姉さんってことは…」
「立夏の育ての母親ってことか」
「おいおい、嘘吐くならもっとマシな嘘吐けよ。どこの世界に母親が自分の子供に喧嘩のやり方なんておし…ぐはっ!!」
「未空の頑張りを無駄にしないで下さいね」
「は、はい…」
自業自得だよ、バーカ。
「信じるも信じないもお前達の自由だが、少なくとも姉さんは喧嘩をやらせるために教えていたわけじゃない。自分で自分の身を守れるようにするために子供達全員に教えていたに過ぎない。それが独学なのは姉さんより強いお手本が近くにいなかっただけだ」
「子供達全員ってことは、まさかカナちんも喧嘩出来るの?」
「姉さんに習ってたからそれなりには出来るんじゃないか。まあ、アイツの場合は嫌々だったけどな」
「“自分で自分の身を守るため”ですか…。それは素敵な教えですね。ただ立夏くんの場合は少々度が過ぎているように見えるのですが」
「ああ。結果的にあの兄弟の中でリツだけが群を抜いてセンスがあった。お陰で自分の身を守れるくらい強くはなったが、何故かアイツはそれを自分のためだけに使おうとしない。アイツが拳を振る時はいつも自分じゃない誰かを守るためだった。言い方を変えればアイツは自分自身を大切にすることが出来ないんだよ。だからアイツはあんなにも自分に無頓着な人間になっちまったんだ」
自分を大切に出来ない、か…。
通りで自己犠牲主義者なんて言われるわけだ。
その上、兄弟の中で自分だけが養子と言うことも原因の一つなんだろうな。
「お、おい…、ちょっと待てよ。え、何でオメー等そんな綺麗にスルーしてるわけ?」
「何が?」
「おや、もう復活したんですか?もう少し寝ていても良かったのに」
「お前が喋ると碌なことねぇから黙ってろ」
「そ、それは悪かったと思ってるけどよ…。だからって重要なことシカトしてんじゃねぇよ」
「重要なこと?」
「“姉さんより強いお手本が近くにいなかった”って件だよ。何でアンタの姉さんはそんなに強ぇんだよ?女なんだよな?」
「そりゃ姉さんが“伝説のヤンキー”だからだろうな」
………。
「「「「………は?」」」」
「まあ、それが普通の反応だよな」