歪んだ月が愛しくて2
それから理事長はリカのお母さんについて話してくれた。
リカの育ての母親である旧姓鏡ノ院春日さんは家庭環境に不満を抱いたことがきっかけで非行に走り、当時12歳の若さで裏の世界に足を突っ込んだバリバリの不良だったらしい。
単車に跨り銀色の長い髪を靡かせ、鮮血を浴びたような真紅の瞳から“女帝”と讃え恐れられ、伝説のヤンキーとして後世に語り継がれた伝説的存在。
その証拠に元暴走族のヨージは“女帝”と言うフレーズに聞き覚えがあったようだ。
「まさか、あの伝説のヤンキーがりっちゃんの母親…?あの“女帝”が?」
「嘘だろう…」と珍しく驚いた様子のヨージに逆にこっちが驚いた。
リカのお母さんってそんなに凄い人だったんだ。
一度でいいから会ってみたかったな。
「そんなに凄い方だったんですね、立夏くんのお母様は」
「そっち側から見たら凄い人なのかもしれないが、アイツは……いや、家の連中は姉さんの存在を疎ましく思っていた。勿論、俺様以外はだけどな。姉さんもそれを分かっているくせに辞めなかった。寧ろ誰かに止めて欲しくて…、自分の存在を認識して欲しくて喧嘩していたように思える。まあ、そんな暴れ馬みたいな姉さんを受け止めてくれたのは後にも先にも義兄さんだけだったけどな」
「夫婦仲は良かったみたいだな」
「ああ、そのお陰で子供達は素直に育ってくれたよ。あんなことがなければ今頃は…」
「あんなこと?」
「、」
そう言うと理事長は罰が悪そうに「……何でもない」と視線を逸らした。
……ふーん、成程ね。
それがリカの秘密ってわけか。
やっぱり理事長はリカが必死に隠そうとしている何かを知っている。
それも理事長が知ってるってことは家族に関する何かだ。
でも、だったら何で頼稀まで知ってんの?
そもそも赤の他人であるリカの家庭事情に“風魔”が首を突っ込む理由が分からない。
いくら風魔が先祖代々から続く忍の家系だからって一般人のリカと関係があるとは考え難い。
だとしたら、頼稀と理事長が隠そうとしてるリカの秘密は全くの別物ってこと?
ああ、もう。余計に分からなくなった。
「納得したか?」
理事長の視線がヨージに向けられる。
「あ、ああ…。りっちゃんが喧嘩出来る理由は分かったよ。あの“女帝”に鍛えられてたならあの強さも納得だわ。でももう一つ、八重樫組のことが引っ掛かる」
「八重樫組?」
「それは恐極組を壊滅させたのが八重樫組だからですか?」
「タイミングが良過ぎんだよ。八重樫組の奇襲はりっちゃんが恐極に嵌められてすぐのことだった。りっちゃんが八重樫組と何らかの繋がりがあるって思っちまうのが普通だろう」
「………」
確かにヨージの言い分は一理ある。
ただの偶然で片付けるには懸念が残る。
だからと言って偶然と言われてしまえばそれを覆すだけの根拠はない。
出たとこ勝負って言うか、こればっかりは本人に確認するしか懸念を払拭する方法はない気がする。
「尊、お前も気になってんだろう?」
「……ああ」
ヨージが尊に同意を求めたことで、リカと八重樫組のことは俺達全員の懸念事項となった。