歪んだ月が愛しくて2
「噛み付く相手を間違えたな」
「、」
突如、先程まで沈黙を貫いていた神代が声を上げる。
「お前に九澄を黙らせることは出来ねぇよ。足掻くだけ時間の無駄だ」
「な、何だよ…、いきなり話に入って来るんじゃねぇよっ。俺はコイツと話を…」
「なら教えてやる。お前には九澄を論破出来るだけの知識も弁論術も持ち合わせていない。そして皇を黙らせるだけの権力も後ろ盾もない。相手の力量を推し量るのも実力のうちだ。ただ吠えるだけなら犬でも出来る」
「い、犬だと!?」
「九澄も、もうそのくらいにしとけ」
「貴方がそう言うなら仕方ありませんね」
「でもよ、お前がストップ掛けるなんて珍しいじゃねぇの」
「リカの弟だから遠慮してんじゃない?」
神代の感情が読み取れない。
カナに対して怒っているのか、呆れているのか、将又バカにしているだけか。
ただ今まで一歩引いたところで傍観していただけあって神代の言い分は正しかった。
俺もチサも他の覇王ですら反論することは出来なかった。
「ふざけんな!散々人をバカにして犬扱いまでしやがって何様だよ!大体最初から気に入らなかったんだ!生徒会長か何だか知らねぇけど我が物顔でリツの隣を陣取って自分のものみたいに牽制してんじゃねぇよ!リツはアンタのものじゃない!」
「それはこっちの台詞だ」
「はぁ!?」
「我が物顔で立夏の隣を陣取ってんのはテメーの方だって言ってんだよ。散々立夏を傷付けといて何が謝罪だ。謝って許してもらえた途端コロッと態度変えやがって。テメーのその分厚い面見てるとイライラすんだよ。そのくせ立夏が弱いだと?まともにアイツと向き合ったことねぇくせに適当なこと言ってんじゃねぇぞ」
「、」
ああ、訂正しよう。
今は神代の感情が手に取るように分かる。
「本当に弱いのはアイツを弱いと決め付けて雁字搦めに守ることしかしなかったテメー等の方だ」
怒ってるな。
いや、そんな可愛いものじゃない。
「立夏は強い。ここにいる誰よりもな」
(これは、マジな奴だ)
俺ですら浴びたことのない怒気にカナの顔色が見る見るうちに青褪めていく。
追い討ちを掛けるように神代が目を細めると、カナはそれに比例するかのように膝を震わせて拳を固く握り締めた。