歪んだ月が愛しくて2



「行くぞ」



そう言って神代が席を立つと他の覇王3人も後を追うようにソファーから立ち上がった。



(まるで王様と家臣だな…)



家臣である3人は王様の命令には絶対服従。
王様が黙れと言えば黙るし、止まれと言えばピタッと止まる。
どんな命令でも逆らわない忠実な家臣は王様の機嫌一つで左右される。
端から見れば不憫で滑稽な光景かもしれないが、目に見えない鎖でガッチリと繋がっている彼等にはそんな感情すら起きないのだろう。
目と目が合えば言葉にしなくても伝わるものが彼等の中には確実にある。
それを実感したのは仙堂が中等部に入学してすぐのことだった。



「行くぞって、まだリカがどこにいるのかも分からないじゃん。今日こそは理事長の口割らせるつもりだったのに…」

「あの理事長がそう簡単にゲロするわけねぇだろうが。長期戦は覚悟しとけよ」

「しかしそう悠長なことも言って要られませんよ。せめて立夏くんの無事を確かめることが出来ればいいのですが…」



彼等3人が普通の家臣とは違うところ。
それは王様に平然と意見が出来るところだ。
そして王様はそんな家臣を咎めぬばかりか家臣の意見を最大限尊重している。
だから極稀ではあるが、そんな王様に逆らおうとする者が現れる。
そう、例えば―――俺様とかな。



「……いいのか?」



覇王がすんなりと引き下がったことに違和感を覚える。
本来の覇王なら追及の手を緩めることなくここで一気に攻め落とそうとするだろう。
誰が相手だろうと一切の情けを掛けず、泣き落としなど通用しない覇王が手を緩めるとしたら考えられることは一つだけ。



「アイツと約束したからな」

「約束?」

「……未空と同じだ。まあ、例外はあるがアイツ自身のことは本人に聞いた方が確かだからな」

「態と煽ったってことか?」

「コイツ等にはコイツ等の、俺には俺の考えがある。やり方が違えど目的が同じなら多少のことは目を瞑ってるだけだ」

「……鏡ノ院を、探るのか?」



それに答えたのは皇だった。



「言いましたよね、僕は尊や未空と違って優しくないと。弟くんを煽ったのは否定しませんが、僕は何一つ嘘を吐いていませんので悪しからず」

「本当いい性格してるよな、うちの大魔王様は」

「全然悪いと思ってないのにね」



皇が鏡ノ院を調べるのは簡単だ。
何せうちは皇の傘下な上、皇の祖父の代からの付き合いのため鏡ノ院の内部事情にはどこよりも精通しているだろう。
いくら哀が鏡ノ院とリツの関係を隠しているとは言え皇に探られたらリツのことが露見するのも時間の問題だ。
そんなことになれば今まで俺達が守って来たものは全て水と泡になる。
何よりリツの記憶が戻ることだけは何としても阻止しなければならなかった。
リツが完全に記憶を取り戻した時、リツの心はもう一度死んでしまうのだから。



(それだけは何としても…っ)


< 469 / 652 >

この作品をシェア

pagetop