歪んだ月が愛しくて2
どうにかして覇王の注意を逸らせないかと思考を巡らせていると予想だにしない言葉が降って来た。
「探られたくなければ必死で隠せ。一瞬の隙も見せるな。立夏の秘密を隠すことがアイツを守ることに繋がるならお前はお前のやるべきことを全うしろ」
「……は、」
俺のやるべきこと、だと…?
「直訳すると、そっちがリカの秘密を守るなら半端なことしないで死ぬ気で隠せってことね。俺達に勘付かれないように」
「その代わり今のりっちゃんのことはこっちに任せなってさ。相変わらず口下手だなうちの王様は」
「だってみーこだもん、仕方ねぇよ」
「貴方方が立夏くんの抱えているものを話してくれない以上こちらも対策の取りようがありません。事が起きてしまえば強硬手段は辞しませんが、今はまだ貴方方が立夏くんの秘密を隠すことで彼を守れているのであればこちらも無闇に事を荒立てる必要はないと考えています」
「但しよく考えろ。お前等のそれはあくまで一時的なものだ。根本的解決には至ってない」
「………」
「それを踏まえた上でもう一度よく考えることだな。本当にアイツを救いたかったら何をするべきかを」
根本的解決。
それは元凶を断つと言うこと。
哀は何度もあの男を始末しようと言った。
でもあの男が死んだところで一度壊れたものは元には戻らない。
どうすれば元凶を断ち切ることが出来るのか…なんて、それが出来れば初めからそうしているさ。
それが出来ないから…いや、それをするにはあまりにもリスキーだから今まで目を瞑っていたのだ。
リツを救いたかったら?
そんなの救いたいに決まってる。
植え付けてしまった絶望や恐怖を薙ぎ払い、昔のような笑顔を取り戻したい。
でもそれを実行に移すにはリスクが大き過ぎる。
下手したらもう二度と笑顔を見ることが出来なくなるかもしれない。
そう思ったら足が竦んで動けなかった。
守りたいはずなのに。
何を投げ打ってでも大切なはずなのに。
誰よりもリツを愛しているのに―――。
「神代くん」
ピタッと、チサの声が神代の足を止めさせた。
「だったよね?弟と文月くんが失礼なこと言ってごめんね。それとリツを助けてくれてありがとう、改めてお礼を言わせて」
「……ああ」
神代もチサに呼び止められたと分かると振り返ってチサの目を見て答えた。
チサが神代を呼び止めたことも意外だったが、何よりそんなチサに正面から向き合っている神代に驚きを隠せない。
俺の知っている神代尊と言う男は大抵の人間には興味を示さないつまらなそうな奴だった。
唯一連むのは他の覇王3人だけ。
他に目立った交友関係はなく仕事関連の付き合いにも滅多に顔を出さない。
そのため神代とお近付きになりたい連中はパーティーなんかで神代の人間を見つけるとすぐに群がって行くのだが、どう言うわけかこの男は人を近付けさせないオーラを放っているようで、空気の読めないバカ以外は遠巻きに見ているだけで滅多に近寄ろうとしない。
それなのにそれと同じ空気を纏う今の神代が一般人のチサを相手に何を言うのか気が気じゃなかった。
「一つ、聞いてもいいかな?」
「………」
しかし先に言葉を発したのはチサの方だった。
「君ならどうする?」
真っ直ぐに神代を見つめる、チサ。
「リツを守るために、君はあの子に何をしてあげられる?」