歪んだ月が愛しくて2
普段は絶対に見せない真剣な表情の中に潜む人を試すような瞳。
こんなチサを見たのは二度目だった。
『すまない。俺が付いていながらリツは…』
『……謝罪なんて要らない。そんなことをされてもリツは―――』
『俺に出来ることなら何でもする。だから…、』
『要らねぇって言ってんだよ!何でもするって、そんなのこっちに丸投げすんなよ!僕だって分からないんだ!リツに何をしてあげればいいのか、こんな状態になるまで気付かなかった僕に何が出来るのか…っ』
『チサ…』
『教えてくれよ!あんな奴にリツを差し出した愚かな僕に一体何が出来るって言うんだよ!?アンタは今のリツに何をしてくれるって言うんだよ!?』
何もしなかった、俺。
何も知らなかった、チサとカナ。
でも死にたくなるような後悔は同時にやって来た。
俺がリツにしてやれること。
それはリツの存在をこの世から消すことだった。
あの時の選択を後悔したことは一度もない。
だが神代の言うように問題を先延ばしにしているだけでは根本的解決にはならない。
元凶を絶つためにはリツの記憶を取り戻すしか方法はないと分かっているからこそ俺にはそれをする勇気がなかった。
「答えてくれる?神代くん」
「………」
お前ならどうする?
神代が俺と同じ立場ならお前はどうやってリツを救う?
「不確かな情報の中で適当なことを言うつもりはない。どんな言葉にも責任が伴うからな」
「確かにそうだね」
「……だが、この状況で確実に言えることが一つだけある」
「何?」
神代の答えを待つ、チサ。
そんなチサの隣にいるカナも息を飲んで神代の答えを待っているように見えた。
俺も………、違う。
俺に出来ることはあれしかなかった。
この世からリツの存在を消すことでしかアイツを諦めさせる方法はなかった。
俺のやったことは間違っていない。正しい。正しいはずなんだ。
それなのに今更俺は何を期待しているんだろうか。
神代の答えを聞いたところできっと何も変わらない。変えられるわけがない。
―――はずなのに。
心のどこかで願っていたのかもしれない。
俺には出来なかったことを簡単にやって退けて、大切な者のためならどんな強靭な敵にも立ち向かう、そんなスーパーマンみたいな奴をずっと待っていた。
「離さねぇよ。掴んだものは何一つ」
いつか…、そんな誰かがリツを助けてくれることを。
「例えアイツがこの先バカなことを考えていても必ず引き摺り戻してぶん殴る。何があっても見捨ててやるかよ」
この俺以上にリツを大切に想ってくれる、誰かを―――。
だからってぶん殴るはねぇだろう。
言葉遣いの知らねぇガキじゃあるまいし。
チサは神代の言葉に少し驚いた表情を見せたが、すぐにふわりと頬を緩めた。
「……君は、リツのことを大切に想ってくれてるんだね」
「当然だ」
(い、言い切りやがったな、この野郎…)
いくらチサが見た目通り温厚な奴だからって、さっき俺様が胸倉掴まれてたの見てなかったのかよ。
チサはな、こう見えても頭に血が上ったら何するか分からない怪力野郎なんだよ。
流石姉さんの息子だわ、色々と規格外過ぎる。