歪んだ月が愛しくて2



相手が誰であろうと変わることのない態度と口調。
それは表裏のない心情を表しており、チサは神代のことを信頼出来る人間と判断したことだろう。

俺も信頼………はしていないが、リツに関することであれば信用出来る人間だとは思っている。
リツの抱えているものを考えたら神代の後ろ盾があるのとないのとでは大分違うし、その直系血族であり次期後継者の神代がリツを守ると宣言すればリツの安全は確保されたようなものだ。
そうなれば鏡ノ院なんてたちまち潰されるだろう。
何故なら鏡ノ院はそれほどの傷をリツに与えたのだから。
アイツを筆頭に鏡ノ院の幹部連中の首が飛ぶのは免れない。勿論その中には俺も含まれている。
神代がリツの安全を確約してくれるなら鏡ノ院なんてどうなっても構わない。
本当はリツの安全面だけを考慮すれば生徒会でも何でも神代に保護してもらうのが最善なことは分かっている。
しかし頭では分かっていても神代なんかに頭を下げる気にはなれなかった。その理由は言うまでもなく俺がリツに心底惚れ込んでいるからだ。



「はいはーい!俺もリカのことが大大大好きでーす!絶対にリカを離しませーん!」

「おい、何おにーちゃんにアピールしてんだよ。外堀から埋めてくつもりか?」

「あ、それいいかも!」

「ふふっ、立夏くんは僕達のアイドルですからね。少なくともこの中に立夏くんを嫌っている人間は1人もいませんのでご安心下さい」

「それを聞いて安心したよ。これからもリツのことを宜しくお願いします」

「言われるまでも…「任せてよ!リカのことは俺が責任を持ってちゃんと守るから!」

「りっちゃんにはいつも助けられてるからね。ちゃーんと恩返ししますよ、おにーちゃん」

「こちらこそ、これからも長いお付き合いになると思いますので宜しくお願いします」

「……テメー等、人が喋ってる時に被せて来んじゃねぇ!!」



何となくこうなることは分かっていた。
チサと覇王を引き合わせたらきっとチサは覇王をリツの“大切な人”として認識すると。
それが面白くねぇから合わせたくなかったんだが、まさか本当に覇王を気に入るとはな。



「クソッ」



でもカナは違う。
今回のことでカナは確実に覇王を敵と認識したはずだ。
あれだけ集中砲火を浴びれば例えそれが正論であっても素直に受け入れることは出来ないだろう。
そう言うところがまだまだガキ臭くて扱い易くてこちらとしては助かってるがな。
この調子で覇王と敵対してくれれば色んな意味でリツのストッパーになってくれるだろう。
俺はまだ覇王を認めるわけにはいかないからな。



「ところで…、今更だけど君達がここに来たのはリツの居場所を聞き出すためとか?それってリツは今ここにいないってこと?」

「ああ、体育祭の翌日に姿を消した」

「えっ!?」

「どっかの誰かさんが拉致ったみたいだよ、おにーちゃん」

「だから俺達も理事長にリカの居場所を聞きに来たんだよ!」

「理事長が立夏くんをどこかへ連れ出したのは間違いありませんからね」

「そう、文月くんがリツを…」

「い、いや、だから、あんなことがあったから少しでも気分転換になればいいと思ってだな…っ」

「流石文月くん、いつもリツのことを考えてくれてありがとう」

「ま、まあな…「で?リツは今どこにいるの?」

「っ!?」



ヒュッと、喉が鳴る。
普段は絶対に見せない鋭い眼光が睨みを効かせる。
普段とのギャップが違い過ぎて怖さ倍増だな。



「とっとと答えてくれる?ああ、それと僕は彼等のように物分かりが良くないからね、分かってると思うけど」

「ははっ、知ってるよ…」



こうなったら白状するしかない。
どうせリツの方もそろそろ限界だろうし、これを機に開放してやるか。
八重樫のことも本人の口からちゃんと聞いて置きたいしな。



ガチャ



そう思った矢先、突然ドアが開いた。
ノックもなしに無礼な客だと叱責しようとしたが、ドアの向こうから現れた見慣れた顔に思わず言葉を失った。



「ただい、まー…」



何で、コイツがここにいる?

だってコイツは哀と一緒に悠の別荘にいるはずじゃ…。



「は?何で…」



それはこっちの台詞だ。


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