歪んだ月が愛しくて2



「リツ、今までどこにいたの?」

「知り合いの別荘に」

「それは文月くんの友達のところ?」

「あー………うん」



チラッと、文月さんに視線を送る。



「だから言っただろう、安全なところで保護してるって」

「保護?」

「保護だろうが」

「………軟禁じゃなくて?」

「お前っ、向こうで自由にさせてやってただろうが!哀からちゃんと聞いてんだからな!」

「はいはい、自由に森の中を散歩させてもらいましたよ」



危うく湖にドボンするところだったけどね。



「文月くん、軟禁ってどう言うこと?僕はそんな話一言も聞いてないよ?」

「だ、だから、それはリツが勝手に言ってるだけでっ」

「リツが悪いって言うの?軟禁したのは文月くんなのに?」

「だからあれは軟禁じゃなくて保護だって!リツを吐かせれば分かんだろうが!」

「リツは素直な良い子だから嘘なんて吐かないよ」

「どこがだ!?」



やっぱり文月さんは兄ちゃんに甘いな。
いや、弱いって言った方が正しいか。
兄ちゃんも兄ちゃんで文月さんのことを信頼してるから最終的には許しちゃうんだよな。
そう考えると文月さんは兄ちゃんに弱くて、兄ちゃんは文月さんに甘いのか。どっちもどっちだな。



「おい」



グッと、誰かに腕を掴まれた。

反射的に顔を上げると、そこには会いたくない人ランキングぶっちぎりトップの王様がいるではないか。



「本当に軟禁されたのか?」

「っ、」



この声、この顔。



『これだけは誰にも譲るつもりはねぇよ』



直視出来るわけがない。

先延ばしにしていた問題に嫌でも直面しそうになる。



「おい、聞いてんのか?」

「き、聞いてるよっ。軟禁って言うのは冗談だよ。知らない土地に連れて行かれたから軟禁って言ったけど自由に散策させてもらってたし、別に鎖で繋がれてたわけじゃないから、だい、じょー…」



―――鎖?



あれ、何か今…



『          』



……ダメだ。



思い出せない。



「………い、」



でも一瞬だけ脳裏に過った声は奴のものだった。



……間違いない。

あれは俺の失った記憶の一部だ。



「…り……、…」



でも何に引っ掛かった?

くさり?

俺の失った記憶には“鎖”が関係しているのか?



そう言えば倉庫でペンキをぶちまけられた時も、窓の格子に手錠で繋がれた時も、意図せず過去の光景が浮かんで来た。
……いや、あれがきっかけと言っても過言ではない。
だとしたら俺の失った記憶はやっぱり―――…。


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