歪んだ月が愛しくて2



「立夏」



部屋の前に着いた時、背後から誰かに呼び止められた。



「……会長?どうしたの?」



何か用でもあるのだろうか。
伝え忘れたことなら電話で事足りるのに。



「……身体は、どうだ?」

「身体?怪我ならもう治りましたよ。向こうにいる間に医者に診てもらってちゃんとお墨付きも…「そっちじゃねぇよ」



そっちじゃない?

あれ、他に何かあったっけ?



「薬の影響で、辛かっただろう…」

「っ!?」



その言葉に無意識に頬が熱くなる。
一瞬で思い出してしまった光景を払拭するため手足をバタつかせて顔を見られないように俯いた。



「あ、あー……あれねっ。もう大丈夫なんで気にしないで」

「………」



会長の目が見れない。
あの日のことが後ろめたくてその話題をずっと避けていたのに。
食堂にいた時は普通に会話出来てたから安心していたのに、どうやらそれは俺の勘違いだったみたいだ。
会長とのことは一先ず置いといて目先の問題を一つずつ潰していこうと思っていた矢先、先制パンチを食らうことになるとは思ってもみなかった。



………仕方ない。

ここは逃げるが勝ち作戦を使わせてもらおう。



「用はそれだけ?だったらもう今日は疲れたから…」

「立夏」



名前を呼ばれたと同時に腕を掴まれ引き寄せられた。
その反動で俺の身体は会長の方に傾き、会長も俺の顔に自身の顔を近付けた。



キスされる、と反射的に思った。



「、」



でも屋上で抱き合う会長と茶髪の女性の姿が脳裏に過った瞬間、頭の中で警鐘が鳴った。



「り、か…?」



ドンッと、思わず会長の胸を押して距離を取る。



「……わ、すれて」

「あ?」



こんなことはダメだ。

こんなことをするべき相手は俺ではない。



「この前の…、体育祭の日のことは全部忘れて」



俺は会長の恋人でも何でもない。

ただの後輩で、仲間。



「俺も、忘れるから」



目を合わせることが出来なくて、会長がどんな顔をして俺の話を聞いていたのか分からないことをいいことに、俺は自分の言いたいことだけを言って自室に逃げ込んだ。





「……ふざけんな」





ああ、消えない。

あの人のシルエットが瞼の裏から消えてくれない。


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