歪んだ月が愛しくて2
「誰って…、知っての通りですよ。ここに来たのは頭の悪い俺が入れる高校がなくて兄ちゃんが文月さんに頼んで俺を入学させたからです」
「それだけじゃねぇよな」
「兄ちゃんとカナのいる家に帰りたくなかったってのもありますね」
「……それだけか?」
「それだけですよ。俺とカナの蟠りは以前話した通りです。兄ちゃんのことは………もう気付いてますよね?」
「………」
一瞬、氷の瞳がぐらりと揺れた。
「他に質問は?」
この際、言えることは全部言ってしまおう。
出し惜しみしたって余計な疑惑を生むだけだ。
「百歩譲ってりっちゃんが“B2”じゃねぇってのは信じてやるよ。でもな、りっちゃんが族や組関係と無関係だとは思えねぇんだわ。ただ喧嘩が出来るってだけじゃなくあの強さは規格外だからな」
「……先輩って、俺のこと嫌いですよね」
緩く、また顔に笑顔を敷く。
偽物の冷たい笑みを。
「嫌いじゃねぇよ」
どこまでも凍っている。
固くて冷たい分厚い壁が、俺達の間に何重にも立ちはだかる。
「でも仲間とも思っていない。会長が言い出した手前話を合わせてるだけですよね?」
「りっちゃんこそ俺達のこと全然信用してないっしょ?なーんにも話してくれないもんね」
「……そう、かもしれません」
「お相子じゃん」
散々不審者扱いした直後、彼はいつも通りの仮面の被った。
緩くて軽い、―――御幸陽嗣に。
次の瞬間、ヒュッと背後の音に振り返る。
「、」
背後で地面と靴が擦れる音が聞こえた直後、風を切る音がして間一髪のところでしゃがんだ。
背後から回し蹴りを入れて来た奴の面を拝む前に、しゃがんだまま左足を軸に右足を回し、片足立ちのまま相手の膝を蹴る。
相手は膝カックンされたように崩れて地面に尻餅を付いた。
「クッソ!」
相手の顔に見覚えはないが、後ろにはまだ6人もいた。