歪んだ月が愛しくて2
試されるだけ時間の無駄だ。
踏み込む覚悟はもう出来ている。
でも肝心の本人にその準備が出来てないなら俺が踏み込むことは出来ない。
無理に暴こうとするのは彼等が俺の知られたくないことを無神経に暴こうとするのと同じだから。
「……まだ、聞かない方が良さそうだね」
「、」
未空の足元に膝を付いて立ち膝のまま未空の頬に手を伸ばす。
下から覗き込んだ未空の顔は痛々しく、必死で何かを飲み込もうとしていた。
(そんな顔、見たくないな…)
未空と彼女の間に何があったのかは分からない。
でも未空の表情を見ればそれが良い思い出じゃないのは明らかだった。
きっと未空にとっては出来ることなら一生思い出したくないほど強烈なトラウマなんだろう。
何も知らない俺が下手に口を出すことは出来ないが、それでもこんな未空を間近で見せられて黙って指を咥えたままなんていられなかった。
「未空…、俺は別に未空とあの人の間に何があったのか知りたいわけじゃないよ。知りたくないわけでもないけど、未空の気持ちを無視してまで話して欲しいとは思わない。それよりも…」
無関係の俺に出来ることなんて高が知れている。
でも俺は未空の力になりたい。
こんな俺を“親友”と呼んでくれた彼のことを、俺も大切だと思っているから。
「未空には笑っていて欲しいんだよ」
綺麗な笑顔じゃなくてもいい。
作り笑いや自嘲気味な笑顔じゃなければ何でもいい。
ただいつものようにバカみたいに笑ってくれればそれで十分だった。
「未空が、心から笑ってないのは苦しいよ…」
ずっと、その笑顔に救われていた。
初めは未空の笑顔に公平の面影を重ねていたこともあったが、すぐにそれが幻想だと気付かされた。
だってどんなに似ていても未空は未空でしかなくて、俺が友達になりたいと思った未空は公平の代わりなんかじゃない、―――仙堂未空なんだから。
未空だから笑って欲しい。
未空だから悲しんで欲しくない。
未空だから、力になりたいと思うんだ。
「そんな無理して笑うくらいなら泣いていいから…」
「や、だよ…。そんなの、俺、かっこわりぃじゃん」
ぽたっと、未空の瞳から一粒の涙が落ちる。
もう我慢しなくていい。
無理して笑わなくていい。
全てを曝け出すのが怖いなら何も言わなくていいから。
「いいよ、格好悪くても。俺はそんな未空だから甘やかしたいと思ったんだから」
だから、俺に―――、
「泣けよ。今だけは、全部忘れてもいいんだよ…」
「っ、」
俺の中に、全部吐き出して。