歪んだ月が愛しくて2
その後、未空は更におかわりして計4杯のカレーを完食した。
美味しそうに食べてくれていたので文句はないのだが、腹壊しても知らないからな。
互いにカレーを食べ終えた後、俺はキッチンで洗い物をしてから風呂に入った。
その間、未空にはリビングでテレビを見て待ってもらっていた。
先程未空の髪を乾かした手前、俺も普段は使うことのないドライヤーで髪を乾かした後バスルームから出ると、未空はソファーに座ったまま大人しくテレビを見ていた。
子供のようにテレビに釘付けの未空を見て内心可愛いと思ったが、テレビから聞こえて来る切羽詰まった男女の声によってそんな感情は一気に吹き飛んだ。
『待ってくれマリー嬢!やっぱり俺には君を諦めることは出来ない!俺はあの頃と変わらず今も君を愛している!』
『いけませんオスカル様。貴方は王族の身であり次期王太子となられるお方。私のような平民では貴方の隣に立つ資格はありません』
『身分の差なんて関係ない!俺が愛しているのは君だ!君だけだ!例えこの先国を背負うことになっても君が隣にいないのでは意味がない!君を手に入れるためなら俺はどんなことでもしよう!この王冠が俺達2人の愛を引き裂くと言うなら、俺はこの王冠を返上しても構わない!』
『オスカル様っ!!』
………何、この世界観?
真剣に見てる未空には悪いけど、何が面白いのか全然分からない。
そもそも何これ?昼ドラ?
いや、今は夜だから夜ドラか?
てか、未空が恋愛ものを見てることにびっくりだわ。
そう言うの全然興味なさそうな感じなのに。
テレビの中で女は涙を流しながら男の腕の中に飛び込む。
そして熱い抱擁を交わした後、2人は見つめ合ってキスをする。………いや、長ぇわ。
「みーこも復縁したいのかな…」
「え?」
未空の独り言に思わず反応すると、未空は俺の目を見て「リカはどう思う?」と尋ねて来た。
“復縁”のキーワードで思い浮かんだのは葉桜小牧と名乗った彼女のこと。
未空はテレビの中の男女を通して会長と彼女のことを思い出していた。
「どうって…、それは会長が決めることだろう。会長があの人とまた付き合いたいなら俺達にそれを阻止することは出来ないと思うけど」
「リカは物分かりがいいね…」
自嘲気味に笑う、未空。
「でも俺は無理。尊があの女とヨリを戻すなんて信じられないよ。てか、何としてでも絶対に阻止してやる。あの女が同じ空間にいるだけでも吐き気がするってのに…」
剣呑の鈍い光を宿す、空色。
保健室で彼女と再会した時とは反対に恨みの篭った目をしていた。
「アイツの人をバカにするようなあの目がマジで嫌い」
「………」
未空は彼女のことを思い出して眉間に皺を寄せながらも、その口元には不自然な弧を描いていた。
「……理由、聞かないの?」
試すような、そんな声。
やっぱり、そう言うところが陽嗣先輩に似ている。
試すようなことを言ってこっちの反応を窺うくせに、全てを曝け出す勇気がない。
そんな逃げた方を、陽嗣先輩を見て学んでしまったんだろうな。
「そう言うこと言うくせに聞いて欲しくなさそうな顔してるけど」
「、」
「違う?」
「………」
肯定も否定もしない未空は、今にも泣き出してしまいそうな表情を更にぐしゃっと歪ませた。