歪んだ月が愛しくて2



未空Side





もう、ダメだと思った。



「未空…、俺は別に未空とあの人の間に何があったのか知りたいわけじゃないよ。知りたくないわけでもないけど、未空の気持ちを無視してまで話して欲しいとは思わない。それよりも…」



知られたくなかった。
リカにだけは絶対に知られたくなかった。
あの女に対する憎しみも、過去のトラウマに飲み込まれそうな臆病な俺も。
リカのことが知りたいって言ったくせに、リカが何者であっても関係ないって言ったくせに、俺の方は全然覚悟が出来ていなかったんだ。



リカはそんな情けない俺に気付いていた。
情けなくて、恥ずかしくて、リカの目を見ることが出来なかった。



でもリカのグレーの瞳は真っ直ぐに俺を見つめていた。



まるでこんな俺でもいいと言われているみたいで無性に泣きたくなった。



俺の頬に触れるリカの掌から熱が伝わって来る。

その手に少しだけ力が入ったかと思えば…。



(ああ、何て顔してるのさ…)



「未空には笑っていて欲しいんだよ」



そんな顔しないでよ。



「未空が、心から笑ってないのは苦しいよ…」



そんな声、出さないでよ。



「そんな無理して笑うくらいなら泣いていいから…」



そんなこと言われたらもう隠せないよ。



醜い感情が顔を出す。

“光”に向かって手を伸ばしながら何かを必死で叫んでいる。



「や、だよ…。そんなの、俺、かっこわりぃじゃん」



でも声に出しちゃいけない。

リカのことだからきっと俺が声に出して叫んだら間違いなくその手を差し出してくれる。



でも、そんなの、迷惑以外の何者でもない。



今だって俺はリカの優しさに漬け込んで甘えている。
素っ気ないように見えても他人を放って置けないリカだからこんな俺でも見離さないでくれる…、そんな確信があって気付いたらリカの部屋のドアを叩いていた。
実際リカは何も聞かずに俺を受け入れてくれた。
「甘やかしたい気分」なんて言って誤魔化して、でも全然誤魔化せてなくて、それでもリカはあの女に囚われたままの醜い感情を解してくれた。



(もう十分迷惑掛けてるのに、これ以上は…)



リカに迷惑を掛けたくない。

リカにだけは嫌われたくない。



それにこの手を掴んでしまったら最後、俺は絶対に振り解けない。



だからずっと隠していた。

これ以上リカを困らせないように、この感情を爆発させないように。



それなのに俺はどうしようもないバカでガキだから、リカなら真実を打ち明けても引かないでくれるんじゃないかって心のどこかで淡い期待を抱いていた。

自分から打ち明ける勇気もないくせに、本当どうしようもないバカだと思う。



「いいよ、格好悪くても。俺はそんな未空だから甘やかしたいと思ったんだから」



でもさ、そんな顔でそんなこと言われたら。



(期待するに決まってんじゃん…)



「泣けよ。今だけは、全部忘れてもいいんだよ…」

「っ」



もう、ダメだ。

消し去りたい過去も、思い出したくないトラウマも、全部引っ括めて受け入れて欲しいと心が叫んでいる。



ブワッと込み上げる衝動を抑え切れず、俺は細い腕を引き寄せて男にしては華奢な身体に抱き付いた。



「リカ、リカ…っ」



もうダメだ。

我慢出来ない。



「リカっ!!」



心の声が零れ落ちていく。

必死に抑え込んでいた感情が、想いが、俺の頑張りも虚しく勝手に溢れていく。



「リカぁ…」



心の中で叫んでいた言葉が喉の奥から湧き出て来る。



「……だい、すき」



受け入れて。


嫌わないで。


俺を、好きになって。


チサさんでも、尊でも、他の誰でもなく俺だけを好きになってよ。



「大好きだよぉ…っ」



一度決壊してしまったものは、後は流れるだけで。

溢れる涙を拭うこともせずリカの肩口を濡らしていく。



そんな俺をリカは拒絶することなく小刻みに震える俺の背中に2本の腕を回した。


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