歪んだ月が愛しくて2
立夏Side
泣き疲れてソファーで眠ってしまった未空をベッドに運んだ直後、文月さんにもらった方のスマートフォンが振動した。
数回の振動で鳴り止んだスマートフォンを開くと、頼稀から1通のメールが届いていた。
その内容を確認した後、俺は物音を立てずにそっと部屋を出た。
玄関のドアを開けると、そこにはメールを送って来た張本人だけでなく覇王3人も揃っていた。
(今は会いたくなかったのに…)
頼稀からのメールには覇王のことは一切書かれていなかった。
覇王の名前を出せば俺が無視すると思ったんだろうが、だったら俺が彼等に会いたくない理由も気付いているくせに。
そんな視線を頼稀に送ると、何故か溜息を吐かれた。
「これが限界だ」
頼稀は両腕を胸の前で組んで壁に凭れたままそう言った。
「立夏くん、未空の様子は…」
苦々しい表情で未空のことを気遣う、九澄先輩。
きっと心の底から未空のことを心配してくれているんだろう。
「……泣き疲れて、寝てます」
「そう、ですか…」
他の覇王2人も俺の言葉に安堵した様子が見て取れた。
……分かってる。
彼等がどれほど未空のことを大切に思っているのか。
“仲間”と認めた者を彼等は決して見捨てない。
覇王の絆の強さはこの数ヶ月で痛いほど実感している。
「……なあ、りっちゃん。何で俺達に未空を追わせてくれなかったわけ?」
だからこそムカついた。
出来ることをやろうとしない、彼等に。
「特に意味はありません。ただ未空とあの人の確執を知ってるのに手を拱いている貴方達よりも、何も知らない俺といた方が未空の気も少しは紛れるかと思っただけです」
あえて棘のある言い方を選べば、彼等は分かり易く反応してくれた。
陽嗣先輩ならまだしも、あのポーカーフェイスが得意な九澄先輩も、何を考えてるのか分からない会長も、俺の言葉に反応したと言うことは少なからず本人達も自覚していたのだろう。
……いや、正確には彼等は動こうとしていた。
彼等なりに未空と彼女を接触させない方法を考えていたが、結果が伴わなければ意味がない。
間に合わなかった、なんて言い訳は通用しない。
だって彼等は未空と彼女の確執を初めから知っていたのだから。
「りっちゃん、怒ってる…?」
へらっと、力なく戯ける陽嗣先輩。
「怒ってませんよ。ただムカついてるだけです」
「あー…だろうな、その感じは」
「……立夏くん、未空から何か聞いてますか?」
「いいえ」
「では未空がああなった原因を知りたいですか?」
「………いいえ」
未空の身に何があったのか、知りたくないわけじゃない。
あんな未空を見せられて気にならないわけがない。
『リカ、リカ…っ』
未空には笑っていて欲しい。
お日様みたいに温かい未空の笑顔が好きだから。
だからこそ、未空の気持ちを無視したくない。
「俺は、未空の口から真実を聞きたい」
未空には、まだその覚悟がない。
俺に本当のことを話して拒絶されないかとビクビクしている。
口で言ってもダメだった。
でも未空に抱き締められた熱から確かに伝わるものがあった。
『大好きだよぉ…っ』
俺には未空の“大好き”が“助けて”と言っているように思えてならなかった。
だから最大限未空の気持ちを尊重したい。
未空を大切に思っているのは、彼等だけではない。