歪んだ月が愛しくて2



「ねぇ、頼稀」



希の顔が徐々に近付いて来る。



希は俺の気持ちに気付いているくせに男心がまるで分かっていない。
普通自分を好いてる相手に平気で顔近付けるか?
いくら幼馴染みだからって警戒心がなさ過ぎだ。
普段男に囲まれた生活を送ってるせいで距離感がバカになったんじゃ………いや、コイツは初めから距離感ゼロだったな。



(人の気も知らないで…)



それでも希は平然と俺の耳に顔を近付けて来る。
すると希は俺の耳元でとんでもないことを口走った。



「頼稀が今微妙な立場にいて俺に話せないことがあるのは当然だと思うけど、少しはあたしのことも構ってよね」

「っ!?」



その言葉に耳を疑った。
そして次第に頬が熱を持ち始め吐息が掛かった耳を手で隠しながらチラッと希の表情を窺うと、希も俺同様に頬を赤く染めて恥ずかしそうな表情を見せた。



(自分から言っといてその顔は反則だろう…っ)



普段は絶対見せることのない愛らしい表情に心臓が早鐘を打つ。
誰よりもポーカーフェイスが得意なはずなのに、希のことになると全然役に立たないばかりか自分でも分かるくらいポンコツへと成り下がる。
女に免疫がないと言うよりも希の女バージョンが久しぶり過ぎてどう対処していいものか分からなかった。



(しかも構えって…)



まさか、あの希が嫉妬してるのか?



信じられない。

自分にとって都合が良過ぎる展開に頬を抓ってみたが………うん、痛みはあるな。



「の、ぞみ…」



希の手に自分の手を重ねて上から強く握り締めると、希は頬を赤く染めたまま恐る恐る顔を上げて俺と目を合わせた。
やけに熱っぽい瞳と上目遣いが相まっていつもの調子が出ない。寧ろ普段とは違う希の雰囲気に圧倒されて口の中がカラカラだった。



「わ、悪かった。これからは気をつ…「ぷはっ」



……あ?



ぷはっ?



「も、もうダメ…、無理、耐えられない…っ」

「あーあ、折角良いところだったのに」



その声に振り返ると肩を震わせながら笑いを堪える御手洗と、保護者面して満面の笑みを浮かべる遊馬がボールを持ったまま俺達のやり取りを傍観していた。



「お前等…」



ジトッと睨み付けても2人に効果がないのは分かっていたが睨まずにはいられなかった。
そればかりか俺があからさまに嫌そうな顔をすると、御手洗は腹を抱えて大声で笑い出しやがった。



「お、おお俺、喉渇いたからジュース買って来るよっ!」



お陰で希には逃げられる始末。

クソが。少しは空気読んで黙ってろよ。



「ああ、ごめんごめん。思いっきり笑ったらスッキリしたからどうぞ続けて。佐々山には逃げられたみたいだけど」

「今度は絶対邪魔しませんから安心して続けて下さいね、逃げられましたけど」

「……お前等、それで空気読んでるつもりだったら大間違いだからな」


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