歪んだ月が愛しくて2



「流石は立夏くんですね」

「正に鶴の一声だな」



嬉々とした声が降って来たかと思えば、九澄先輩と頼稀に手招きされた。



「チケットを無駄にしたくないとか、お前らしいな」

「自分で稼いだ金で食ってるわけじゃないんだから節制するのは当たり前だろう」

「立夏くんのそう言うところが王様を魅了しちゃったんでしょうね」

「魅了って…、俺何もしてませんよ?それより会長はどこに電話してるんで……うわっ!」

「みーこはね、多分リカのお願いを叶えられるところに電話してるんだと思うよ」

「未空、急に飛び付くなっていつも言って………ん?俺の願い?」

「りっちゃんが言ったんでしょう、チケットを無駄にしたくないって。だからアイツはりっちゃんのチケットを無駄にすることなく、尚且つコスパの良いそれなりの店をチョイスしてるってわけよ」

「え、でもあのチケットが使える店って限られてるんじゃ…」

「僕達の王様に出来ないことがあると思いますか?きっと尊なら立夏くんの舌を満足させられる店を選ぶはずですよ」

「いや、そもそも何で俺を基準にするんですか?今日の主役は未空なんですから未空の意見を聞くべきだと思うんですけど」

「それは神代会長も理解してると思うぞ。それに未空の希望はお前からもらったチケットで焼肉を食うことで、お前はそのチケットを無駄にしたくない。だから必然的にお前の希望を叶えれば未空の意見を尊重したことになるんだよ」

「んー…でも何かそれって俺よりの意見に比率が傾いてる気がするんだけど…」

「俺はリカと一緒にいられるだけで嬉しいから何でもいいよ。正直、焼肉は好きだけどそれに固執してるわけじゃないし、リカが俺のことを考えて誘ってくれたことが何よりも嬉しいから」

「未空がそう言うなら…」

「ただみーこが美味しいところ全部持っていくのは許せないけどね」

「美味しいところ?」

「ううん、何でもない」

「ああ、それと先日立夏くんが保健室に連れて来た彼。確か3年の岩城くんでしたっけ?立夏くんが彼に何をお願いしたのかは知りませんが、尊はその件で立夏くんのお願いを叶える権利を奪われてしまったわけですからそのリベンジも兼ねて立夏くんの希望を尊重したのだと思いますよ」

「はい?何ですかその権利は?そんな権利誰も要らないでしょう」

「さあ、それは尊に聞いてもらわないと…。ただここにもその権利を欲する人間がいるのは確かですよ」

「何それ!?そんな美味しい権利を赤の他人に与えたってこと!?俺でもみーこでもなく他の誰かに!?」

「ね?」

「未空…、話が大幅に脱線しそうだからその話はまた今度ね」

「まあ、安心しなよ。例えあのチケットが使えなかったとしても俺達がその店を利用することでメリットがあるのは店側の方だ。だから無理なもんを可能にすることなんて訳ないんだよ」

「それはそれで本末転倒な気がしますけど…」

「ふふっ、それだけ尊の影響力は絶大と言うことですよ」

「それをアンタが言いますか」



案の定と言うか、予想通りと言うか、電話を終えた会長は「移動するぞ」とだけ言って待機させていた2台のリムジンにそれぞれ乗り込み、どんぶらこと揺られること約20分、連れて来られたのは繁華街から少し離れた緑豊かな庭園近くにあるどう見ても焼肉屋には見えないザ・料亭みたいなところだった。
2階建ての木造家屋の入り口には従業員と思われる和服を着た人達がズラッと並んでいて、会長の到着を今か今かと待っていた。
会長レベルの人が利用する店だからそれなりのところだとは思っていたが、まさかこんな仰々しいお出迎え付きとは思わなかった。
これじゃあお忍びとか絶対無理じゃん。それはそれで可哀想だけど。


< 563 / 651 >

この作品をシェア

pagetop