歪んだ月が愛しくて2
「いや、でもよ…、あっちが先にガン飛ばして来たんだぜ」
「それは今朝お前が立夏にしたことを誰かに聞いたからだろう」
「よ、頼稀くんっ!?」
「あー…それであっちも汐を警戒してるんですね」
「恐らくな」
「発信源は未空辺りでしょうね」
「ハッ、立夏くんの彼氏でも何でもねぇくせに…」
「それはお前も一緒だろうが」
「そ、それはそうだけど…。でも俺達は立夏くんの護衛なのにああもバリケードされると中々近寄れないし、万が一何かあった時に対応が遅れることも…」
「それでもどうにかして護衛するのがお前達の役目だ。覇王が邪魔なのは言い訳にならねぇよ」
「別に言い訳してるわけじゃ…っ」
「分かってる。だか覇王を理由に護衛出来ないって不貞腐れるのは違うだろう。お前の言う通り覇王が邪魔なのは事実だしな」
不貞腐れてる、か…。
自分でも薄々気付いてたけど、頼稀くんに指摘されて改めて気付かされた。
不貞腐れていたのは護衛が出来ないからでも神代会長にガン飛ばされてるからでもなく、誰であろうと立夏くんを独り占めされるのが面白くないからだった。
(玩具を取り上げられたガキじゃあるまいし…)
でも煌びやかな表世界で生きる覇王と、夜の世界の王として君臨する立夏くんとでは生きる世界が全然違って、それが分かってるからこそ立夏くんを独占されてもまだ我慢出来るのかもしれない。
決して交わらない関係性。
それはいつまで経っても平行線のまま。
いくら覇王が立夏くんを仲間と認めたところで、立夏くんが覇王と一緒にいることを望んだところで、結局は上部だけの付き合いだから互いに本当の自分を曝け出すことは出来ないだろう。
そんな曖昧で脆い関係を築いたところで羨ましくも何ともない。
寧ろ明確な終わりがある関係なら最初から関わらなければいいのにとすら思ってしまう。
まあ、それは俺達にも言えることだけど。
ただ覇王よりかは明確でないってだけ。
だって俺達は既に立夏くんの正体を知っているんだから。
「でもこのまま覇王が立夏くんにベッタリだと中座するのは無理そうですね…」
「ああ。立夏も半ば諦めてると思うが…、まあ様子見ってとこだな。もし立夏が当初の予定通り実行に移すなら汐と遊馬のどちらかに護衛を頼みたいんだが」
「はいっ!それは俺がやります!」
「声でか」
「………私情は挟むなよ」
「あくまで任務だからな、任務」
「分かってるよ!俺だってこう見えても隊長補佐なんだぞ!やる時はやるっての!」
「どうだか…」
「張り切り過ぎて空回るなよ」
「俺の信頼度低くない!?」
「「今更?」」
ガクッと、肩を落とす。
この2人には口で勝てた試しがない。
これ以上無駄な抵抗をすると返り討ちに遭いかねないので、今は目の前の料理を口に運ぶことだけに専念することにした。
どうせここは覇王の奢りなんだし、この際バカみたいに高い肉食ってアイツ等の財布をすっからかんにしてやろう。
それが今の俺に出来る立夏くんを独占する覇王への仕返しだった。