歪んだ月が愛しくて2



「ご馳走様でした」



案の定、昼飯の会計は覇王が…と言うよりも神代会長の奢りだった。
俺は覇王がついて来た時点で端っから金を出す気はなかったし、遊馬達も素直に奢られる気満々だったから財布を出すこともしなかったけど、立夏くんは理由もなく奢られるのが嫌だったみたいで「せめて自分の分は出す」と頑なに訴えていた。
でも立夏くんの前で格好付けたい神代会長が当の本人から金を受け取るはずもなく、いつもの口喧嘩に発展し…。



「俺はゲームに負けたからここの支払いをするだけだ。別に好き好んで金を使ってるわけじゃない」

「でも負けたのは俺も一緒じゃん。だったら俺も支払わなきゃ罰ゲームにはならないだろう」

「お前の罰ゲームは全員分の飲み物を買うことだろうが。ここの支払いを俺とお前で割り勘にしたらそっちは誰が支払うんだよ」

「あ、忘れてた…」



まあ、そんな感じで昼飯の支払いに関しては一件落着し、俺達は料亭を後にした。



「で、次はどこに行くんだよ?」



2台のリムジンで再び繁華街に戻って来た俺達は次の目的地を決めることとなった。



「……次はゲーセンです。さっきのボーリング場の近くにあるんで」

「ゲーセンか…。久々だな」



御幸陽嗣の問いに答えたのは希だった。
頼稀くんから聞いていたけど、希は御幸陽嗣が苦手らしく受け答えにもいつもの覇気がない。
原因は御幸陽嗣の立夏くんへの対応が信用ならないと言う理由と、希の正体に気付いてるっぽいからってことらしい。
希のことは本人から聞いたわけじゃないけど頼稀くんから聞いて知ってるから、希が御幸陽嗣を警戒するのは仕方ないことだと俺も思う。
それに俺も立夏くんを弄ぶ御幸陽嗣のことが死ぬほど嫌いだしな。



「じゃあここから歩いてすぐだね!早く行こうよ!」

「おい、お前場所知らねぇくせに先走ってんじゃねぇよ」

「未空、迷子になっては元も子もありませんよ」

「ゔ…っ、のんちゃーん、案内おねがーい…」

「オッケー。じゃあ皆俺の後についてき…「あのさ」



突然、立夏くんの声が遮った。



「悪いんだけど、先にゲーセン行っててくれない?」



ああ、ここで切り出すのか。



「え、何で?立夏くんは行かないの?」

「嘘っ、リカ行かないの!?何で!?どっか行っちゃうの!?」

「いや、行かないんじゃなくて、ちょっと用事があるから先に行ってて欲しいんだ。用が済んだら後から追い掛けるから」

「用事って何?」

「自分の家に忘れ物を取りに行くだけだよ。本当は宅配便で送ってもらおうと思ってたんだけど、ここまで来たら直接取りに行った方が早いと思ってさ」

「そんな急を要するものなんですか?」

「いいえ。だから今までは必要なかったんですけど、どうせ地元に来たならついでに取りに行っちゃおうと思って」

「そう言えばりっちゃんの実家も白羊なんだっけ?」

「はい」

「じゃあここはリカの地元でもあったんだね」

「そう、だね…」

「俺と頼稀の実家も白羊だけどな」



そう、ここ白羊区は立夏くんの地元。
つまり白夜叉伝説発祥の地であり、白夜叉の統治下にある街だ。

東都において白羊区出身であることはちょっとしたステータスとなっていて、白羊区出身であるだけで就職や受験など様々なところで優遇される…、なんて噂を聞いたことがある。
それが本当かどうかは分からないけど、白羊の住民が他と違うってことだけは分かる。
何て言うか……考え方とか、そもそも頭の作りが違う気がする。
白羊の住民は自分達の出身に誇りを持っている。
半数の人間はそれを自慢げに誇張し、他の区の人間を嘲笑っているようにさえ思える。
まあ、頼稀くんや希みたいに何にも考えていない人もいるけど。
そしてもう一つ、白羊の住民は白夜叉に支配されることを望んでいる。
白夜叉が街に蔓延る害虫を食らい尽くすことで街の平和が保たれていると信じて疑わないのだ。
だから白羊区出身者には白夜叉信者が多い。それも熱狂的過ぎるほどのイカれた連中が。
しかも白羊区は他の区の3倍の面積を有するため信者の数も桁違いだった。
俺達“B2”も正統派暴走族なんて言われているけど、結局は粗悪品のレッテルを貼られた不良集団だ。白夜叉のように街全体から崇高される存在とは訳が違う。



(立夏くんからしたら迷惑な話なんだろうけど…)



「………」



そんな立夏くんの変化に気付いたのは俺だけじゃなかった。


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