歪んだ月が愛しくて2



「まあ、りっちゃんの言う通りだな。いくらお前が信者でも得体の知れねぇ奴に入れ込んでまで友達失くすことはないんじゃねぇの?」

「そうですね。君を襲った犯人が白夜叉でないと断言出来ない限りは…」

「それなら断言出来る!!」

「え、断言出来ちゃうの?」

「お前、まさか犯人を知ってるのか?」

「知ってる…と言えば知ってる、けど…」

「けど?」

「……俺は、あの人に憧れてこの世界に入った。けどあの人と話したこともなければちゃんと顔を見たこともない。だから俺達を襲った連中の中に本当にあの人はいなかったと断言することが出来なかったんだ。でも一つだけはっきりしてるのは俺に“白夜叉”と名乗った奴は間違いなくあの人じゃなかった」

「ん?自分から“白夜叉”って名乗ったのに何で白夜叉じゃないって断言出来るの?会ったことないんじゃないの?」

「どう言うことだ?」

「俺はあの男を知ってる。……いや、知ってるって言っても俺が一方的に知ってるだけだけど」

「誰です?君はその人物の名前を知っているんですか?」

「流石にフルネームまでは分からない。でも奴のチームでの呼び名なら知ってる」

「チームって…、その犯人もどっかの族に入ってんの?」

「ああ。俺にあの人の名を語ってあの人を族狩りの犯人に仕立てようとしたのは、この東日本のトップに君臨する暴走族“百鬼夜行”の幹部―――キョウって呼ばれてる奴だった」



キョウ?



初めて聞く名前に首を傾げる。
何気なく隣にいるヨージを見上げると、何故かヨージは……いや、ヨージだけじゃなくみーこや九ちゃんまで険しい表情をしていた。
その顔はどう見ても心当たりがあるって顔だった。



「……知ってるの?」

「知ってるも何も…」

「ついこの間会った」

「え、会ったの!?そのキョウって人に!?何で!?」

「偶然だ。偶々東都にいた時、白夜叉と“鬼”が揉めてるって情報が入って現場に行ったらそいつが出て来たんだよ」

「じゃあその時も白夜叉の名前を語ってそのキョウって人が喧嘩してたの?」

「いや、その時の白夜叉は本物だった。キョウが俺等の前に現れたのはその本物を捜している最中だったからな」

「え、キョウって人は白夜叉のことを捜してるの?」

「ああ。そのために白夜叉を名乗って本物を誘き出そうとしたらしい」

「やっぱり…」

「杜山くん、やっぱりとは?」

「何となくそんな気がしてたんです。キョウはあの事件であの人のことを恨んでるからその逆恨みで…」

「……まあ、当たらずも遠からずってところだな」

「何でヨージがそんなこと分かるんだよ?」

「そりゃ実際に会ったからな。それにアイツはただの脳筋バカだから考えてることなんて筒抜けなんだよ」

「……やけに親しげな言い方ですね。もしかして陽嗣先輩ってそのキョウって人と知り合いなんですか?」

「知り合いっちゃ知り合いかな…」

「昔からの友人みたいですよ、例の黒歴史時代の」

「黒歴史?」

「あ、もしかして、そのキョウって人が昔同じチームにいたって言う白夜叉に半殺しにされた友達?」

「まあな」



ガコッ



何かが床に落ちた音がして振り返ると、沢山の果物が床に散らばっていた。



「と、もだちって、アンタ……まさか“鬼”なのか…?」



真っ青な顔をしてヨージを見つめる、杜山くん。



「……元な。今は足洗って真っ当に生きてるぜ」

「、」

「ははっ、そう身構えるなよ」



ヨージが元“百鬼夜行”の人間だったことに驚きと嫌悪感を隠し切れない杜山くんは、まるでお化けでも見ているかのように驚愕の色を浮かべていた。
その反面ヨージは足元に転がった果物を杜山くんの掌に乗せて試すようなニヒルな表情を見せた。



(あ、この顔…)



「今は陽嗣のことなんてどうでもいい。コイツに聞いたところで大した情報は得られねぇからな。問題は…」

「いや、どうでもいいってもっと言い方あるでしょうよ」

「尊が危惧しているのはこの事件を起こしたのがキョウの独断か、それとも“百鬼夜行”として動いているのか…、と言うことですね?」

「ああ」

「オメーも無視すんな」

「貴方は少し黙っていて下さい、どうせ大した情報は持っていないんですから」

「悪かったな役立たずで!」



みーこも九ちゃんもヨージのことを気遣って意図的にこの話題を終わらせようとしていた。
きっと2人もヨージの微妙な表情の変化に気付いたんだろう。
ヨージにとってあの頃のことは本当に黒歴史みたいだから…。


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