歪んだ月が愛しくて2
「ねぇ、頼稀は白夜叉に会ったことあるの?」
「……ああ」
「ほん…「本当かそれっ!?」
途端、俺の言葉に杜山くんが勢い良く被せて来たかと思えば、杜山くんはベッドから身を乗り出して興奮気味に頼稀に顔を近付けた。
「ほ、本当にあの人に会ったことあるのか!?いつ!?どこで!?まさかあの人のアジトに招待されたなんてこと…っ」
「顔近ぇんだよ。気持ちは分かるが少し落ち着け」
「あ、ああ…、悪い。つい興奮しちゃって…」
「……お前、そんなにアイツに会いたいのか?」
「ア、ア、アアアアイツっ!?アンタ、あの人のことをアイツ呼ばわりしてるのか!?何て恐れ多いことを……まさか、もしかして知り合い?仲良かったりする?」
「まあ…、それなりに」
「マジか!!スゲーなアンタ!!アンタ一体何者!?」
「人間」
「頼稀くん、こう言う時にそのボケは必要ないかと」
「ハッハハッ!!何を隠そう頼稀くんは俺達“B2”の幹部であり諜報部隊隊長様であらせられるのだぁあああ!!」
「いや、大袈裟」
「花房の奴、少し締めた方がいいんじゃない?」
「汐煩いぞ」
「え、アンタ達“B2”なのか!?それなのにあの人と仲良いなんて…」
「過去の因縁に俺個人は関係ない。そもそも“B2”は白夜叉を恨んじゃいないからな」
「右に同じく」
「左に同じく!」
「そ、そうなのか…」
杜山くんは未だ興奮冷めやらぬって感じで頼稀達“B2”の話に興味津々だった。
族の頭張ってるとか言ってたけど、目を輝かせて子供みたいにはしゃぐ姿からはとてもじゃないけど想像出来なかった。
「杜山くんって意外と子供っぽいね」
「煩ぇから黙らせろ」
「どうやら先程までの態度は照れ隠しだったみたいですね」
「やっぱ信者じゃ…「そんなの可笑しいよ!!」
突然、アオは病室に響き渡るほどの大声を張り上げた。
「だって白夜叉は史くんを襲った犯人かもしれないんだよ!それなのにそんな人に憧れてるなんてどうかしてるよ!」
アオは杜山くんの両肩を掴んで言い聞かせるように早口で捲し立てた。
「だから、あの人はそんなことしないって…」
「分からないじゃん!史くんが知らないだけで本当は悪い人かもしれないじゃん!何で喧嘩が強いってだけでそんな人を尊敬出来るの!?平気な顔して人を傷付ける人が良い人なわけないよ!」
「葵っ!!」
そう言って病室を飛び出したアオを率先して追い掛けたのはのんちゃんとみっちゃんだった。
そんな2人に続いて汐と遊馬が病室を出て行き、残ったのは俺達6人だけとなった。
俺もすぐにアオの後を追い掛けようとしたけど、何となくここにいなきゃいけない気がして足を止めた。
「アイツ、何でそこまで…。あの人はこの事件に関係ないのに…」
杜山くんもアオの後を追いたいんだろうけど、未だ完治していない怪我のせいで思うように動くことが出来ず布団の上から自分の足を殴っていた。
まるで不甲斐ない自分自身への苛立ちをぶつけるかのように。
そんな杜山くんに追い討ちをかけたのはリカだった。
「葵の言い分は正しいよ」
「、」
バッと、弾かれれたように顔を上げた杜山くんがリカを睨み付ける。
「君はその族潰しと話したことがあるの?君を襲った犯人じゃないって100パーセント言い切れるの?」
「そ、それは…」
「それじゃあ葵が心配するのは当然だよ。君がそいつと話したことがないように、葵だって見ず知らずの奴のことなんか信用出来るわけないんだから」
「………」
「それに確かな根拠がないなら無闇に他人を信じるのはやめた方がいい。……君のためにもね」
いつの間にかリカの顔から笑顔が消えていた。
そればかりか全ての感情を消したみたいな無表情で杜山くんのことを見つめていて、何かいつものリカじゃないみたいで急に不安になった。
怒っているわけじゃない。
悲しんでいるわけでもない。
「アンタ、一体…」
「………」
本当に“無”だった。