歪んだ月が愛しくて2



『最近よく“鬼”に顔出してるみたいだけど、何かあったのか?』

『ん?別に何もないけど』

『………』

『いやん、そんなに見つめられると公平照れちゃう♡』

『……前まではそんな頻繁に顔出してなかったよな』

『ねぇ、お願いだから無視はやめて悲しいから』

『で、本当のところは?』

『だからマジで何もないって。くだらねぇことで上が騒いでっけど、俺は関係ねぇし関わる気もねぇからさ』

『くだらないこと?』

『何か知らねぇけど人捜してるらしいぜ。そんなくだらないことで一々呼び出すなって話だよ。こっちはシロちゃんの世話で忙しいんだっつーの』

『おい、いつ俺がお前に飼われたんだよ?』

『衣食住の提供とその他諸々のケアしてんだから飼ってるようなもんでしょう』

『……頼んでない』

『俺んちで餓死されたら溜まったもんじゃないからね』

『一食くらい抜いたところで死にはしねぇよ』

『一食二食の話じゃないから作ってんだろうが!もう少し自分のことにも関心持とうね頼むから!』

『努力する』

『はい、口だけの奴ね。もう本当シロがそんなんじゃいつまで経っても俺離れ出来ねぇよ?』

『する必要性があるのか?』

『もし俺が大怪我して入院したらどうするの?突然海外の学校に留学しちゃうパターンだってあるかもしれねぇよ?そんなことになったらちゃんと自分でメシ作れる?俺がいなくても1人でちゃんと寝られる?』

『どっから突っ込むべきか迷ったが、とりあえずガキ扱いしてんじゃねぇよ一つしか違わねぇくせに』

『だってシロちゃん俺が目を離すとすぐ知らない人に喧嘩売られるし、その上加減もしないで病院送りにしちゃうから俺心配で…』

『誰の心配してんだよバカ』



ああ、何で俺はあの時アイツの言葉を鵜呑みにしてしまったんだろう。



あの時、俺がちゃんと気付いていたら。

俺がもっとアイツのことを気遣ってやれていたら、あんな悲劇は起きなかったはずなのに。



『だから約束して。俺がいない時もちゃんと毎日三食食べるって。ついで言うと睡眠2時間とか少な過ぎだからせめて1日5時間は寝てくれよな。後は知らない人に喧嘩売られてもちゃんと手加減すること。それと…』

『ああ、もううっせぇな。お前は俺の母親かよ。要はちゃんとメシ食えばいいってことだろう?これからはなるべく食うようにすっからとりあえずオムライス作れよ腹減ったから』

『なるべく?』

『………絶対食べるから』

『約束だからな!』



あの笑顔が。

バカみたいに声を上げて笑う、笑顔が。



『…ごめん、シロ……』



赤に塗り潰されていく。



「―――っ!!」



いっそのこと叫べたら良かったのに。

そうしたら少しは気持ちが楽なると思ったのに出来なかった。



声が出なかった。

周りの声も聞こえない。



……あれ?



ここは病院なのに何でこんなに静かなんだろう。



自分の声も、周りの話し声も聞こえなくて。

これじゃあまるでこの世界に自分なんて存在してないみたいな…。



途端、ふわっと視界が真っ白に染まった。



「は…っ、はぁ…」



堪らなくなって、呼吸が出来るところまで逃げたくて、顔を覆っていた手でマスクと眼鏡を外して酸素を吸い込む。
Tシャツの首元をこれでもかってくらい伸ばしながら浅い呼吸を繰り返す。
被っていた黒のキャップはいつの間にか床に落ちていた。



その時。



「立夏」

「―――っ!?」



パシッ!!



背後から突然名前を呼ばれたことに動揺して、咄嗟に伸びて来る手を払い退けてしまった。

見上げた先にいたのは…。



「かい、ちょ…」


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