歪んだ月が愛しくて2



「どうなんだ?」



さっきの話を聞いて何も感じなかったと言えば嘘になるが、あの話を聞いたのがこの場所でなければここまでの不調を来たすことはなかっただろう。



「……俺、病院が嫌いなんです。だからここに来るといつもこんな感じなので気にしないで下さい」

「嫌な思い出でもあるのか?」

「そんなんじゃないですよ。ただ…、ここに来ると薬品の臭いとか真っ白なシーツやカーテンが自然と目に付いちゃって何か吐き気がするんですよね…」

「……そうか」

「それに元々片頭痛持ちだし。だからこれも暫くすれば治るので大丈夫ですよ」

「こうなるって分かってたくせに何で着いて来た?」

「それは…」

「そもそもお前は端っから俺等と別れて1人でここに来ようとしてたみたいだが、一体何の目的があってここに来た?杜山と接触するためか?」

「え、な、何の話ですか?俺は元々実家に忘れ物を取りに…」

「バカか。この俺がお前の下手な嘘を見抜けねぇとでも思ったか?未だに兄貴と向き合うことから逃げてるお前が自分から進んで実家に帰るわけねぇだろうが」

「っ、俺が…兄ちゃんから逃げてるって言いたいわけ…?」

「違うのか?」

「………」

「………」

「………」

「………」

「……………ちが、わないけど」

「ああ言う引き留め難い言葉で一時的にも距離を取ろうとしたってことは、俺等に聞かれたくない話がしたかったってことだろう。目的は何だ?」

「あれ?言いたくないことは聞かないんじゃなかったっけ?」

「調べるのは構わないって言ったのはお前だろう」



ゔっ、確かに…。

痛いところ突いて来たな。



「それに、遠慮せずに聞いていいんだろう?」



(やられた…)



気付いた時には既に会長の術中に嵌まった後だった。
余計なことを言わなきゃ良かったと後悔する暇もなく、当然前言撤回などさせてもらえる雰囲気でもなく、俺が口を割るのにそう時間は掛からなかった。



「………確かに、東都に来たついでに杜山くんと接触しようとしたのは事実です。族狩りの被害者の中で比較的軽症で犯人が自ら“白夜叉”と名乗った相手は彼だけでしたからね」

「杜山から聞き出したかったのはその犯人の正体か?」

「首謀者がキョウだと言うことは分かってましたけど、より明確な証言が欲しかったんです。それに杜山くんの怪我の状態も確認したかったので」

「確認してどうなる?怪我の状態が酷かったら頭でも下げるつもりだったのか?」

「さあ?どうしてたかな…」



頼稀と同じようなことを言う会長に口元が歪む。

揃いも揃って同じことしか言わないな。



結局、杜山くんには謝れなかった。
それどころか感じ悪いことしか言ってない気がする。
まあ、それは葵に対する態度が気に食わなかったせいなんだが、そこに俺個人の感情がなかったかと言えば嘘になる。
何をどう見たら白夜叉なんかに憧れるのだろうか。
たかが族潰しなんかに気を取られて時間を浪費するより、もっと大切なことが目の前にあるはずなのに。



「てか、陽嗣先輩が元“鬼”の人間だったのは予想外でしたよ」



すると会長は驚いたように目を見開いた。



「知らなかったのか…?」

「初耳です」

「だが、あの時の風魔の反応は…」

「頼稀は知ってたみたいですね。でもあえて俺には伝えなかった…。俺に生徒会を辞めろって言った意味が漸く分かりましたよ」



頼稀が陽嗣先輩のことをあえて俺に話さなかったのは既に陽嗣先輩が“鬼”を抜けており、尚且つあの事件に陽嗣先輩は関与していないからだ。
それでも俺に生徒会に入って欲しくなかったのは頼稀なりの優しさなんだろうな。



「陽嗣のことを聞いて、お前はどう思った?」

「……別に、どうも思ってませんよ。陽嗣先輩が昔“鬼”にいたからって俺には直接関係ありませんし、正直あのことがなければ“鬼”なんて眼中にありませんでしたから」

「そうなのか?」

「そうですよ。昔は族潰し…なんて言われてましたけど、何か目的があって喧嘩してたわけじゃないし、そもそも族潰しをやってた自覚もなかったんです。………あれは、ただのストレス発散だったんです。1人に喧嘩を売られてやり返したら今度は5人10人と増えて行って、最後にはチーム全体から喧嘩売られるようになってて…、それで族潰しなんて呼ばれるようになったんでしょうね」

「………」

「だから陽嗣先輩のことは何とも思ってません。キョウと仲が良いからって陽嗣先輩を利用したり傷付けたりも絶対にしませんから安心して下さい」

「そっちは心配してねぇよ…」



あ、そうなの?

そのことを心配して陽嗣先輩のことを聞いて来たと思ったのに。



……ん?



じゃあ会長は一体何の心配してるわけ?


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