歪んだ月が愛しくて2
蝶の毒
「邪魔、どけ」
「ああ、僕の楽園が…」
何が楽園だ、アホらしい。
「どうでもいいけど、お前も寮長会議に出席すんだろう。とっとと行けよ」
「しかし僕にはこの温もりを手放す勇気がないのだよ!こんな愚かで愛に溺れた僕を許してくれないだろうか!」
「でも愛しの九澄先輩には会えるけどな」
「ジーザス!僕はっ、僕はなんて罪深き男なんだぁぁあああ!!」
「はぁ…」
九澄先輩が頭痛くなるのも分かる気がする。
頼稀もよく一緒にいて疲れないな。
……いや、疲れてはいるのかも。
「アゲハさ、あんまり九澄先輩に迷惑掛けるなよな。いくら好きな人だからってしつこくし過ぎると逆に嫌われるぞ」
「おや、心配してくれてるのかい?」
「心配してるのは九澄先輩の方」
「駒鳥は優しいね。……だからかな、君の周りには虫が多過ぎる」
「は?」
虫?
「まあ、その虫が必ずしも害虫とは限らないが」
「………」
グッと、アゲハの身体を片手で押す。
「さっきから虫とか害虫とか意味分かんねぇこと言ってるけど、一々くっ付くなよ鬱陶しいから。だから九澄先輩に勘繰られるんだよ」
「勘繰られたら何か困ることでもあるのかい?」
「困んのはそっちだろうが」
九澄先輩のこと好きなくせに。
「んー…やはり困るのは駒鳥の方かな。僕は君と違って失うものは何もないからね」
「失うもの?別に俺だって…」
瞼の裏に浮かんだのは、かつての仲間達。
「本当に?」
「、」
そして次に過ぎったのは、ここで出会った彼等だった。
「僕の目は誤魔化せないよ」
「………」
失いたくない。
もう二度とあの日を繰り返したくない。
でも失いたくないと思えば思うほど、失った時の反動が大きいのは経験済みだ。
「……何が、言いたい?」
無意識に声のトーンが下がる。
「何故、九澄くんが僕達の関係を気にするのか分かるかい?」
アゲハは俺の問いに答えることなく、身を屈めて小さな声で俺に耳打ちした。
「恐らく彼は……いや、覇王は僕の正体に気付いている」
「正体?」
つまり、それは…。
「僕が“B2”の総長だと言うことにね」