歪んだ月が愛しくて2
途端、希と御手洗は険しい表情を見せた。
ここまで言ってやったのにまだ話さねぇのかよ、と呆れられたかもしれない。
御手洗が言うように希が俺を気遣ってあえて気付かないふりをしてくれていたことには気付いていた。
希はこれまで俺が触れて欲しくないことや知られたくないことには一切触れて来なかった。
それは俺が“風魔”だから線引きしなきゃいけない部分があると理解してくれていたからだ。
そんな希に俺はいつも甘えていた。そして今も…。
その希が初めて俺の触れて欲しくない部分に触れた。
同時に今まで我慢していたものが一気に溢れ出た。
それを確信させたのは、希の寂しそうで泣きそうな表情だった。
「……まだ、全てを話すことは出来ない」
すると4人が驚いた表情を見せた。
「ま、だ…?それって時期が来たら話してくれるってこと?」
「話す話さないを判断するのは俺じゃないってことだ」
「……じゃあ、誰が判断するわけ?」
御手洗が怪訝そうに顔を顰める。
「お前達が言うように、今回の件は立夏にも無関係な話じゃない」
「、」
「っ、頼稀くん!?」
スッと、右手を翳して汐と遊馬を制止する。
「希も言ってたが、最近の立夏の様子が可笑しいのはそれが原因だ。でも今回の族狩りの犯人は立夏じゃない」
「立夏がやったわけじゃないのに無関係じゃないの?」
「……よく分かんないんだけど、それって今回の事件には無関係ってことでいいんじゃないの?何をそんなに心配してるわけ?」
「……今回ばかりは間違えるわけにはいかないんだ」
「え?」
「どう言うこと?」
「今回の事件において俺と立夏の目的は同じだ。族狩りの首謀者と実行犯を見つけ出し、速やかに事件を消息させること。誰にも知られず、誰にも気付かれず、この街から害虫共を根刮ぎ排除するために俺達は動いている。だが少しでもやり方を間違えば立夏は聖学から……いや、俺達の前から確実にいなくなる」
「「っ!?」
「……俺が全てを話せないのは、今回の事件が立夏の過去に関係してるからだ。だから話す話さないを判断するのも立夏自身だ」
「立夏の、過去…?」
「……君が言い渋ってた理由は分かったよ。でも藤岡がいなくなるってどう言うこと?どうすれば藤岡はいなくならずに済むの?」
「何も…、酷な言い方をするが、お前達に出来ることは何もない」
「「、」」
「強いて言うなら余計な詮索はしないでくれ。俺に聞くのは構わないが立夏本人には絶対に聞くな。もし万が一、お前達が何か見たり何かを知ってしまったとしても心の内に留めて置いて欲しい。お前達がいつも通り普通に接してくれることが、アイツにとっては何よりもの安定剤なんだ…」
「「………」」
「頼む」
そう言って頭を下げると、俺の後ろで汐と遊馬も頭を下げた気配がした。
汐は兎も角あの遊馬まで頭を下げるとは…、予想外の行動に一瞬だけ意識を持っていかれたが俺達が頭を上げることはなかった。
病院のスタッフや患者からは人目も憚らずこんなところで何やってんだと思われているだろうが、これが俺なりの希と御手洗に対する精一杯の謝罪と誠意だった。
「……分かった」
「うん。そこまで言うなら頼稀の言う通りにするよ」
ゆっくりと顔を上げる。
希は仕方ないと言わんばかりに苦笑し、御手洗はブスッとした表情ではあったが渋々納得してくれた。
「安定剤か…。うん、何かそれって嬉しいな」
「てか、いつも通り接するなんて当たり前なんだけど。今更媚び売ったり突き放したり出来るわけないだろう、気持ち悪い」
本心では俺の曖昧な説明に納得出来ない部分もあるだろう。
でも2人は自分達の知りたいと言う欲求よりも立夏の気持ちを尊重することを選んでくれた。
余計なことまで話してしまったが、今下手に動かれて立夏の正体がバレたらそれこそ取り返しがつかなくなる。
(そうなったら、立夏はもう…)
もう間違えるわけにはいかない。
二度と失わないためにも、今はまだ触れられるわけにはいかないんだ。