歪んだ月が愛しくて2



「………いや、可笑しいでしょう」



その声がする方に顔を動かすと、そこには呆れた様子で若干顔を引き攣らせた御手洗と、ハラハラした様子で落ち着きのない汐と、完全にこの状況を面白がっている遊馬が立っていた。



「……何だ、お前達もいたのか?」

「さっきからずっと後ろにいたよ」



気付かなかった。

立夏のことに気を取られて油断してたな。



それに恐らくコイツ等は俺と立夏の会話を聞いていた。

それが故意でなかったとしても油断していた俺のせいだ。



立夏は気付いていたのか…?



……いや、どちらにせよ、希と御手洗に関しては俺と立夏の会話で全てを理解するのは難しいだろう。

まあ、あれだけでも俺が立夏を傷付けたことは伝わったと思うが。



「頼稀くん、立夏くんは…」

「……俺の判断ミスだ」

「これからどうします?」

「俺から立夏に話す。……いや、謝って来る」

「そうですか…」

「………」

「だーいじょうぶ。もし絶交されたら俺が慰めてあげるからさ」

「励ましてるのか追い詰めてるのかどっちかにしなよ」

「だって頼稀のこんな弱ってるところ見るの久々なんだもん。面白くてつい」

「だからって最後の背負い投げは必要ないと思うけど」

「つい♡」

「ははっ、良かったね。将来は尻に敷かれること間違いなしじゃん」

「煩ぇよ…。そんなことより葵は戻って来たのか?」

「まだです。でも立夏くんを追い掛けた貴方を佐々山くんが追い掛けたので……つい」

「……お前、完全に面白がってるだろう?」

「まさか。俺も立夏くんのことが心配だっただけですよ」

「お、俺も…、ですっ!!」

「お前には聞いてねぇよ」



それくらい聞かなくても分かる。
多分、御手洗も口には出さないが、立夏の様子が可笑しかったことには気付いていただろう。
そうでなければ自分の車で休めなんて言うはずがない。



「この中で立夏を心配してない人は1人もいないよ」

「だろうな…」

「皆…、詳しい事情を知らない俺だって今の立夏はどこか危なっかしくて見てられないって時々思うもん…。転入して来た時から他の人とは何か違ってて、正直始めの頃は取っ付き難かったけど、何だかんだ言って生徒会に入ってからは人間らしくなって表情も前より全然豊かになって、ああこれが本来の立夏なんだって安心してたんだ。でも最近…、葵が杜山くんのことで落ち込んでからは立夏の表情もどこか暗かった…。それって今回の事件が何か関係してるってことでしょう?」

「希、悪いが…」

「因みに頼稀が肯定しなくても俺と邦光は分かってるから。てか、それ以外考えられないし」

「まあ、ある程度の予想は付いてるよ。佐々山も可哀想に。君は藤岡と武藤の心配だけしてればいいかもしれないけど、君の最も近くにいる佐々山は藤岡と武藤と君のことまで心配しなくちゃいけないんだもんね。これって君が余計な不安を佐々山に与えてるからなんじゃないの?」

「………」

「それでも何も言わないつもり?君にとって佐々山ってその程度の存在だったの?」

「御手洗っ、それは…」

「俺達にも話せない事情があるんだよ」

「事情ねぇ…。また1人で判断して勝手に行動するつもり?何のために佐々山が喝入れたと思ってんの?」

「、」

「ああ、もう本当バカ。何回同じことすれば気が済むわけ?君ってもっと頭が良い奴だと思ってたけどとんだ鳥頭じゃん。もう何発か佐々山のもらった方がいいんじゃない?」

「え、いいの?」

「……指鳴らすとゴリラみたいだからやめなよ」

「ウホホ?」

「(本当、コイツの性別間違ってるんじゃないの…)」



2人が言いたいことは分かった。

お陰で2人の本心を知ることが出来て良かったとさえ思っている。



だが…、



「無理だ」



何と言われようと、何度殴られようと。

俺はもう間違えるわけにはいかないんだ。


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