歪んだ月が愛しくて2



『これが、風魔の罪だ』



父親から見せられた1枚の写真。
そこに写っていたのは幸せそうな笑顔を浮かべる小さな子供。
純真で、眩しくて、穢れを知らない無垢な笑顔。



(俺とは、違う…)



それが写真を見た時の感想だった。



『この子は…』



だから、信じられなかった。



『彼の存在が風魔の罪であり、彼こそが正統な風魔の後継者だ』



父親の話も、彼の素性も。

あの眩しいほどの笑顔が跡形もなく消えてしまったことも。



写真の中のままずっと、今も尚純真で眩しくて穢れを知らない無垢な笑顔のままだったら俺達が干渉することはなかっただろう。
本当の両親のことは知らなくても、育ての両親と兄弟達に囲まれて笑って過ごせているならそれで良かったのに…。



そんな平凡な日常すらも立夏から奪った奴がいた。

育ての両親も、唯一の味方も、立夏の人生も何もかも奪って、独占して、支配して―――。



『     を取り戻せ。それが“風魔”であるお前の義務だ』



……分かってる。

分かってる、けど。



「……あのさ、何で2人はそこまで立夏くんのことを心配してくれるんだ?俺達“B2”ならまだしも2人は…」

「お前、今更それ聞くのか?」

「え?今更?」

「本当今更だね」

「君バカなの?何分かりきったこと聞いてんのさ」



「「そんなの友達だからに決まってるじゃん(だろう)」」





自慢げで、どこか挑発めいた口調。

でも揺るぎない強い意志を感じた。



2人の言葉に、その当たり前みたいな表情に、汐は驚きのあまり固まっていたが反対に俺の心は先程までと打って変わり驚くほど軽くなった。



「……ああ、そうだな」



何も迷うことはない。

取り戻そう。奪われたものは何もかも。

笑顔も、過去の記憶も、立夏自身の人生も。



そしてちゃんと謝ろう。



『頼稀は自分の力を過信し過ぎだよ。立夏のためを思ってしたことだとしてもその結果立夏を傷付けたら何の意味もない』



希の言ったことは正しかった。
立夏を傷付ける可能性があった時点で真実を包み隠さず話すべきだったんだ。



だがいくら立夏自身に関係することでも話せないこともある。

また傷付けて悲しませてしまうかもしれない。



それでも言えない。

まだ話すわけにはいかない。



これが“風魔”として生を受けた俺が背負うべき業。

愛する者も、守りたい者も、結局は俺自身の手で傷付けて粉々に砕いてしまう。

抗えない何かが俺を修羅の道へと誘う。



(まあ、それこそ今更だけどな…)



次期風魔の頭首に指名された時から覚悟していた。
俺の存在が他人を傷付けると言うのならその傷を背負って生きてやろう。
それが今の俺に出来るせめてもの―――。



「頼稀!」



正面から俺に抱き付く希を受け止める。
希は何故か嬉しそうに口元を緩ませていた。



「俺、諦めないよ!」



その表情とは裏腹に大きな瞳に強い光を宿していた。



「ああ…」



その光がある限り俺は迷わず進むことが出来る。

例えそれが修羅の道であっても乗り越えることが出来る。

何度道に迷っても導いてくれる光がある限り、俺は―――。



「諦めるも何も、この僕が折角友達になってあげたんだから返品不可に決まってるだろう」

「俺だって何があっても立夏くんの友達はやめねぇよ!」

「やめないんじゃなくてやめられないんだろう。まあ、俺としても今まで費やした時間を無駄にするつもりはないけどね」



俺も、諦めない。



『義務なんて、そんな言葉使う必要ないと思うよ。何を引き摺ってるのか知らないけどさ、リカだって義務なんて言葉で守られるよりも頼稀の意志で一緒にいて欲しいと思っているはずだよ』



風魔の義務なんかどうでもいい。

立夏の気持ちを無視することになっても関係ない。



今度こそ俺の意志で、俺のやり方で、立夏のことを守ってみせる。




















「そ、んな…」



でも俺は思い知ることになる。

俺の決意も、希達の気持ちも、何もかも、もう既に手遅れだったと言うことに。


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