歪んだ月が愛しくて2
「立夏くん、俺が先にやってもいい?」
「勿論」
それに目的は良いスコアを残すためじゃなくあくまでストレス発散のためだ。
昔は喧嘩することでストレス解消していたが、今の俺はそうもいかない。
白夜叉が復活したなんて噂が流れてる今、目立つ動きは避けなければならないし、手近なサンドバッグを求めて夜な夜な街を徘徊することすら躊躇われる。
それに何より…。
「汐くん、頑張って!」
「立夏くんに良いとこ見せてやれよ」
「立夏が見てるからって張り切り過ぎんなよ!」
「バッ…、バカ野郎!!適当なこと言うんじゃねぇよ!立夏くんが勘違いするだろうが!」
「ねぇ、何で汐は俺に良いとこ見せたいのかな?」
「何でって…、あんなあからさまなのに気付いてないわけ?」
「何が?」
「それはアイツがお前の………、護衛だからじゃないか」
「ああ、成程」
「(立夏が鈍感で良かった…)」
「いや、ただバカなだけじゃん」
白羊に入った瞬間に感じた、違和感。
肌に突き刺すような複数の視線。
そして俺達を監視するように行く先々まで纏わり付く黒塗りの車。
俺の勘が正しければ、奴等の狙いは恐らく―――。
「よっしゃぁぁああ!!207kg!!自己ベスト更新したぜ!!」
「おおっ!!」
「汐スゲーじゃん!やれば出来る男!」
「汐くん凄いね!」
「なーんだ、汐のことだから張り切り過ぎて失敗すると思ったのに残念」
「ああ、期待外れだな」
「何普通に良いスコア出してんの。つまんないんだけど」
「俺を何だと思ってんだよ!?」
奴等が警戒する理由は何となく分かる。
だからこそ余計なことはするべきじゃない。
普通に遊んで、面白可笑しく喋ってバカやって、遊び疲れて学園に帰って、そしていつもの日常へと戻って行く。
それでいい。
この場を切り抜けるための最善策はそれしかない。
それしかないのに…、
「次は立夏くんの番だよ」
「……うん」
拳が壊れないように専用のグローブを汐から受け取り、それを自分の左手に嵌める。