歪んだ月が愛しくて2
未空Side
「俺は大丈夫だから皆はどっかで時間潰してて」
そう言って少し困ったように苦笑するリカは、バンッと音を立てて分厚いドアの向こうへと消えてしまった。
どっかで時間潰してて?
「―――って、リカを置いてどっか行けるわけないじゃん!!リカのバァアアアカ!!」
事務所のプレートが掛かったドアに向かって叫ぶ。
でもそのドアが内側から開かれることはなかった。
ガチャガチャと、壊しそうな勢いでドアノブを回すみーこもリカを置いてこの場を離れるつもりはないようだ。
「チッ、中から鍵掛けてやがる」
「どうしよう、リカ1人で大丈夫かな…」
貯金があるとは言ってたけど、実際の代金がいくら掛かるかは聞いてなかったし、それでもし払えない額だったらまたあの野郎にああだこうだ言われてブチギレたリカがヤケクソで変な書類にサインでもしちゃったら…。
「よし、乗り込もう」
「いや、待て待て待て!早まんじゃねぇよ!」
「止めんなヨージ!あのドアぶっ壊してリカのこと助けに行くんだから!」
「バカか!少しは冷静になれ!尊が行くならまだしもオメーが行ったところで余計ややこしくなるだけだろうが!そもそもお前じゃあのドアは破壊出来ねぇよバカ!」
「バカバカ言うな!リカ待っててね、今助けに行くからねぇぇええええ!!!」
「だから大人しくしとけって!!」
俺を後ろから羽交い締めにするヨージに必死で抵抗する。
昔やんちゃしてただけあって俺程度の力ではびくともしない。くそ。
「オメーもボーッと見てないでこのバカ何とかしろよな!」
「壊したものは弁償すればいい」
「あん?」
「だからぶっ壊しても問題ない、やれ」
「ラジャー!!」
「こっのバカ兄弟がぁああ!!何でりっちゃんが絡むとこんなポンコツに成り下がんだよ!?九澄!オメーもこのバカ共どうにかすんの手伝えよ!」
「まあ、恋は盲目と言いますしね」
「納得してんじゃねぇ!」
俺を取り押さえながらみーこと九ちゃんを諫めるヨージは、どうやら穏便にこの状況を解決しようと考えているらしい。
でもさ、口で言っても分からないんだから手を出しても仕方なくない?
みーこも弁償すれば何やってもいいって言ってるんだから、ここはまず力ずくでリカを取り戻して、その後のことは後から考えても遅くないと思うんだよね。
「本当、期待を裏切らないポンコツぶりだな」
はぁ…、と溜息を吐きながら然りげなく俺をディスったのは頼稀だった。
ふん、いいもんねポンコツでも。
別にディスられたって痛くも痒くもないもん。
「だってぇ、リカが連れて行かれちゃったんだよ…。寧ろ何で頼稀はそんな冷静でいられるのさ?あの店長のことムカついたり殺してやりたいとか思わないわけ?」
「極端なんだよお前は。てか、お前のそれ、日に日にヤバい方向に行ってるって気付いてんのか?」
「日に日にリカへの愛情が増してるからじゃない?」
「自覚済みってのが余計に質悪ぃな…」
「知ってる」
「(開き直ってんじゃねぇよ…)兎に角、一度ここを出るぞ」
「は?何で?」
「どっかの誰かさん達が目立つことしてくれたお陰で注目の的になってるからだよ」
「だから?リカを置いてこの場を離れろってこと?」
「立夏も大丈夫だって言ってただろう。ここは立夏に任せて俺達は一旦ここから…」
「嫌だよ。リカを置いてどっか行くなんて有り得ない」
この状況でリカを置いて行けって?
有り得ない。
天地がひっくり返っても絶対そんなこと出来ないよ。
俺にとってリカがどれほど大切な存在か…、頼稀なら分かるでしょう?
それなのにこの場所から離れようとか、マジで意味分かんないんだけど。
「……風魔、どう言うことだ?」
「………」
渋々みーこの元に歩み寄る頼稀がその耳元で何かを呟いた。
2人が何を話しているのか、俺には分からない。
でも頼稀に耳打ちされた後のみーこの顔が珍しく驚いていたから、どうでもいい話じゃないってことは何となく分かった。
そんな大切な話だったら俺達にも聞こえるように話してくれたらいいのに…、なんて言わないけどさ。