歪んだ月が愛しくて2
「何物騒なこと言ってんだよ!そんな簡単に消そうとしちゃダメ!絶対!ほら電話も切って!」
「薬物ダメ!絶対!」みたいなこと言ってる自覚はあるが、兎に角2人に思い止まってもらうために必死だった。
そんな俺の必死な訴えも虚しく、2人は口を揃えて「何で?」と首を傾げた。
いや、何でじゃねぇよ!
ちょっとムカついたからってそんな簡単に人間消そうとしちゃダメだろうが!
そもそもその思考回路が可笑しいから!
ぶっ飛び過ぎだから!
「だってコイツが先にリカのこと悪く言ったんだよ、姑息とか卑劣とか…、自分だってそんな大した人間じゃないくせに。しかも俺達の前でだよ。ね?消されても仕方ないと思うでしょう?」
思わねぇよ!
悪口言われたくらいで死罪とか重過ぎだわ!
「それにさ、弁償弁償ってさっきからずっと金のことばっか気にしてんじゃんコイツ。だからここは一旦みーこに立て替えてもらってコイツを黙らせちゃおうよ」
黙らせちゃおうよって…。
君達の黙らせるは永眠って意味でしょうが。
「あー…お金のことなら大丈夫。今日中なら何とか払えそうだし」
「は、払うって、どうやって…?ま、まさかっ、本当に闇金で借金する気なの!?そんなことしたら最終的に首が回んなくなって利子としてリカの処女を要求されたり、変な書類にサインさせられてAVに出させられたり、使いものにならなくなったら臓器を売れとか言われるんだよ!ダメだよそんなの!絶対ダメ!」
「ダメだな」
「いや、俺まだ何も言ってないんだけど…」
「じゃあどうやって弁償するつもりなのさ!?返す当てがあるの!?」
「まさか、鏡ノ院を頼るつもりか?」
「まさか。俺がこんなことであの人に借りを作るわけないじゃん。普通に貯金があるからそれで弁償しようと思ったの」
「貯金?お前の個人資産ってことか?」
「まあ…、何かあった時のために前々からバイトして貯めてたんだよ」
「え、リカってバイトしてたの?いつから?何の?」
「あー…中学の頃から、その、定期的に……用心棒的なことを…」
「あ?用心棒だと?」
「て、的なことだよ!的なっ!」
「………」
「んー…でもやっぱり俺アイツ嫌いだな…」
この際、聞き分けのない2人は放って置くとして、とっとと弁償して早いところこの場から立ち去った方が良さそうだな。
俺がここで問題を起こした以上、遅かれ早かれ店長はこのことをアイツに報告するはずだし、そうなればアイツか松田さん辺りがここへやって来て会長達と接触してしまう。
松田さんなら今の俺を見ても気付かずにスルーしてくれると思うが、アイツだったらそうはいかない。
無駄絡みして来るのは目に見えているし、面白半分で会長達に余計なこと言われたら堪ったもんじゃない。
どうにかして会長達との接触を避けなければ…。
「兎に角、お前は一度事務所に来い。後で逃げられても困るから名前と住所と連絡先、それと念書も書いてもらうからな」
店長は俺の腕を掴んで強引に事務所へ連れて行こうとする。
傍にいた会長と未空は再び店長に食って掛かるが「俺は大丈夫だから皆はどっかで時間潰してて」と宥めて、後のことは頼稀に任せることにした。
チラッと視線を送れば、頼稀は静かに頷いてくれた。
……よし。これで大丈夫だろう。
「逃げるなよ。もし逃げたらお前は一生八重樫組に追われることになるぞ」
「っ、も、もう連絡したんですか…?」
「あ?……ああ、さっき下のもんに連絡させたが。何だお前、八重樫組のこと知ってんのか?」
「まあ、名前くらいなら…」
「お前、白羊のもんか?だったら知ってるだろう、白羊が八重樫組のシマってことくらいは。あの連中に目付けられたらここではやっていけねぇんだよ。お前はたかがゲームを壊したくらいでって思ってるかもしれねぇが、八重樫組の上にいるあの方はどんな小さなことでも秩序を乱す者には容赦しない、恐ろしいお方なんだよ」
「………」
「だからもう諦めろ」と諭す店長は、俺の腕を掴んだまま事務所のドアを開けた。