歪んだ月が愛しくて2



一方、ゲーセンでは新たな火種が生まれようとしていた。





尊Side





『もう時期、ここに八重樫組の連中が来ます。今は詳細な説明は省きますが、恐らく組の連中に便乗して白夜叉の側近もついて来るはずです。そうなったら立夏にとっては非常に不味い状況になります。だからここは一旦引いて下さい。他の連中に立夏の正体がバレたら、それこそ何もかも終わりです』





風魔にそう言われて、渋々この場から去る決断をした。



その矢先、俺達の目の前に現れた人物に俺と風魔は言葉を失うこととなる。





「―――邪魔」





ギラギラとした鳶色の瞳が特徴の美丈夫だった。
癖のないグリーンアッシュの髪を揺らし、全身黒ずくめのスーツを身に纏った若い男は吸い込まれるように事務所の中へと入って行った。



その後ろ姿をただ呆然と見つめることしか出来なかった。



「……誰、今の人?」



未空の疑問に、俺は答えなかった。



誰だと?

そんなのこっちが知りたいくらいだ。



「あの人、どこかで見たような…」



誰かが、ポツリと声を漏らした。



「……確か白羊は八重樫組のシマでしたね。店長から連絡を受けて様子を見に来たのではないですか?」

「でもよ、さっきの男の襟にバッチなんか付いてなかったぜ。それに身形は立派だけど結構若そうな顔してたし、それこそ俺達と同じくらいじゃねぇか?」

「でもでも、事務所に入ったってことは関係者ってことだよね?だったらあの人に頼んで俺達がリカの代金立て替えちゃおうよ!」



思い立ったら即行動の未空は立夏の名前を叫びながら事務所のドアを叩く。
ガンガンと、ぶっ壊しそうな勢いでドアを叩いているため、見兼ねた同級生達が未空を取り押さえて説得を試みる。



「み、未空くんっ、あんまり煩くしない方がいいよ!中で大切な話をしてるかもしれないし!」

「そうそう!これ以上立夏の印象悪くしたら本末転倒だろう!」

「もう少し頭使いなよこの単細胞!」

「大丈夫!みーこがいるから何とかなるよ!リカぁああああ!!今助けに行くからねぇ!!」

「うっさい!!これ以上尊様のお手を煩わしたら僕が絞め殺してやるからな!!」



喧しい声をBGMに俺の隣まで歩み寄る九澄と陽嗣が小さな声で問い掛ける。



「尊、どうしますか?」

「なーんか面倒なことになりそうだな…」

「………」



恐らくあの男は八重樫組の人間だろう。
見た目は若かろうが、あの殺伐とした雰囲気は一般人のものとは思えない。尚且つあの如何にもな装いがその証拠だ。
それにあの男が現れた時の風魔の反応がそれら全てを肯定していた。



「風魔、あの男が…」



風魔にしか聞こえない小さな声で疑問を投げ掛けると。



「―――“ナツ”です。白夜叉の側近の」



やはりな…。

あの男が入って来た瞬間、客が静まり返ったのはそう言うことか。



チッ、と無意識に舌打ちが漏れる。


< 637 / 651 >

この作品をシェア

pagetop